料理雑誌を読んでいると、料理研究家の方が魚醤のレシピを紹介しているのをよく見かけます。
「わかる!」と膝を打つこともあれば、
「おしい!」と思うことも。
だって、1本ですべての料理を制するのは、難しいんです。
「なんでもめんつゆを入れればおいしくなるよ」に、ちょっと近い。
魚醤は、万能であり、同時に個性的でもある。
だからこそ、選び方を間違えると「思ってたのと違う……」となりがちなんです。
魚醤に興味を持つと、たいてい3つの迷いにぶつかります。
「どの魚で作ればいいの?」
「市販品と手作り、どっちがいいの?」
「作ったあと、どうやって使えばいいの?」
わが家も、最初は全部わからないまま手探りでした。
この記事は、その3つの迷いに全部答えるためのページです。

この記事を読んでいるあなたは、もしかしたら──
私と同じように、雑誌を見て魚醤に興味を持った主婦かもしれない。
魚が大量に釣れて困っている、という贅沢な悩みを持つ釣り人かもしれない。
興味本位で買ってはみたものの、使いこなす自信のない、自炊を始めたばかりの社会人1年生かもしれない。
魚醤を「買いたい人」も「作りたい人」も「使いたい人」も、
ここを入口にして、自分にぴったりの一本へたどり着けるように、
ささやかな地図を作りました。
発酵おやこでは、これまで20種類以上の魚で魚醤を仕込んできました。
その経験から言える、「実際に作ってきた人にしか書けない選び方」をお伝えします。
この記事でわかること
✔ 市販品と手作り、どちらがあなたに向いているか
✔ どの魚で作るとどんな味になるか(魚種別の選び方)
✔ 料理や目的に合わせた魚醤の選び方
✔ 世界と日本の魚醤、そして新しい魚醤の世界
1. まず大きな分かれ道:市販品か、手作りか
魚醤との付き合い方は、大きく2つに分かれます。
その前に、ちょっとした「あなたの気持ちチェック」をしてみましょう。
□ 魚醤がどんなものか、まず知りたい
□ 手軽に、すぐ使い始めたい
□ 添加物の入っていない、安心できる調味料がいい
□ 自分好みの味に、こだわって仕上げたい
上の2つにチェックがついた方は、市販品から。
下の2つ、特に「味の好み」を大事にしたい方は、手作りがおすすめです。
順番に見ていきましょう。
手軽に試したいなら、市販品から
「魚醤がどんなものか、まず使ってみたい」
そんな方は、市販品から始めるのがいちばんです。
ただし、ここで一つだけ言わせてください。
「魚醤だから」という理由で、いきなりナンプラーを買うのは、おすすめしません。
ナンプラーは、クセが強い。香りも強い。
そして本命のタイ料理以外への応用が、けっこう難しいんです。
それを使いこなせるくらいの料理上級者なら……
きっと、この記事は読んでいないはず(笑)。
ではどんな魚醤を選べばいいか。
答えは、ナンプラーとは対極にある、クセが少なく、香りもマイルドな魚醤です。
魚醤のクセの強さは、ざっくり言うと「内臓を入れているかどうか」で変わります。
内臓ごと発酵させると、力強いけれどクセも強くなる。
内臓を入れずに作ると、すっきりクリアな味になる。
そこでおすすめなのが、イタリアのコラトゥーラ。
同じカタクチイワシを使っていても、内臓を入れずに作るので、
雑味がなく、上品な旨味だけがすっと立ち上がります。
ミシュランの星付きシェフにもファンが多い、と言われる魚醤です。
最初の1本がコラトゥーラだと、「魚醤って、こんなに洗練された味なんだ」と、
いいスタートが切れるはずです。
→まず試してみたい方にDelfino社のコラトゥーラ
まず1本買って、「魚醤ってこういう味なんだ」と知ってから、
手作りに進むかどうかを決めても、遅くありません。
本物の味と安心を求めるなら、手作りへ
さきほどの気持ちチェックを、もう一度思い出してください。
実は、上から3つ目までの願い(知りたい・手軽・無添加)は、
選び方次第で市販品でも、ある程度かなえられます。
無添加のコラトゥーラもありますからね。
でも、4つ目の「自分好みの味にこだわりたい」だけは、手作りでしか手に入りません。
✔ 魚の種類を選んで、味の違いを楽しみたい
✔ 塩加減や熟成期間を、自分で決めたい
✔ 「わが家だけの一本」を育てたい
こんな思いがある方は、もう手作りに踏み出すタイミングです。
手作りの魚醤は、材料が「魚と塩」だけ。
小麦も大豆も使わないので、アレルギーのあるお子さんがいるご家庭でも安心して使えます。
わが家が魚醤を作り始めたのも、もともとは子どものアレルギーがきっかけでした。
「魚醤ってそもそも何?」という方は、まずこちらの記事から読むと、全体像がつかめます。
→魚醤とは?2000年の歴史を持つ”魚の醤油”がいま注目される理由
2. どの魚で作る?──魚種別の選び方
ここからが、発酵おやこのいちばんの得意分野です。
魚醤は、使う魚によって、まったく違う味になります。
ワインがぶどうの品種で味が変わるように、
魚醤も「どの魚で作るか」で、性格がガラッと変わるんです。
これは、いろんな魚で実際に仕込んできたからこそ、自信を持って言えること。

まずは定番から:カタクチイワシ(和製ナンプラー)
「いきなり魚を選べと言われても……」という方へ。
迷ったら、まずはカタクチイワシです。
ナンプラーもコラトゥーラも、原料はこのカタクチイワシ。
世界中の魚醤の「定番中の定番」で、旨味が強く、小さいので下処理も簡単。
魚醤づくりの基本を学ぶのに、これ以上ない魚です。
わが家では、内臓のクセを抑えた「和製ナンプラー」として仕込んでいます。
初心者向け:キビナゴ・スズキ(クセが少なく失敗しにくい)
カタクチイワシ以外で最初の一本を選ぶなら、キビナゴかスズキ。
どちらも脂やけ(脂の酸化)のリスクが低く、仕上がりの匂いも穏やか。
家族に「魚醤くさい」と敬遠されにくい、やさしい魚醤になります。
キビナゴは小さくて丸ごと仕込めるので、下処理がとにかく簡単。
スズキは白身魚の王道で、各工程の意味がわかりやすい。
中級者向け:アジ・クロダイ(個性が出てくる)
少し慣れてきたら、個性のある魚に挑戦してみましょう。
アジは、力強くてパンチのある旨味。わが家でいちばん登場回数が多い魚醤です。
クロダイは、磯の香りをまとった個性派。ほかの白身魚にはない複雑なコクが出ます。
上級者向け:マイワシ・サバ(脂と向き合う)
脂の多い青魚は、魚醤づくりの最高難度。
脂やけとの戦いになりますが、成功したときの旨味は格別です。
マイワシは「不向き」と言われる魚を2年かけて濃厚な一本に。
サバはリスクが同居する青魚最高難度。鮮度管理が勝負を分けます。
→不向きと言われたマイワシで2年『マイワシの魚醤』仕込みから収穫まで
迷ったら、この一覧から
7魚種を難易度・味・料理の相性で比較したガイドが役立ちます。
3. 目的から選ぶ──「どう使いたいか」で決める
「魚の種類で選ぶ」のとは逆に、「どんな料理に使いたいか」から逆算する選び方もあります。
| こう使いたい | 向いている魚醤 | 理由 |
|---|---|---|
| 和食を上品に仕上げたい | スズキ・花鯛などの白身魚 | クリアで繊細。素材を邪魔しない |
| カレーや炒めものにパンチを | アジ・マイワシなどの青魚 | コクが深く力強い |
| エスニック料理に使いたい | カタクチイワシ(和製ナンプラー) | 本場のナンプラーに近い |
| とにかく無添加にこだわりたい | 手作り全般(魚と塩だけ) | 添加物ゼロ。中身が全部わかる |
| 魚介の旨味を重ねたい | クロダイなどの個性派 | 磯の香りで奥行きが出る |
→白身魚の魚醤の作り方:高級魚で作る和食に特化した発酵万能調味料
4. 世界と日本、そして新しい魚醤の世界
魚醤は、世界中にあります。少し「魚醤の世界地図」をのぞいてみましょう。
世界の魚醤
| 名前 | 産地 | 主な原料 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ナンプラー | タイ | カタクチイワシ | 世界で最も流通。塩気と香りが強い |
| ニョクマム | ベトナム | カタクチイワシ | ナンプラーよりまろやか |
| コラトゥーラ | イタリア | カタクチイワシ(内臓なし) | 雑味がなく上品。星付きシェフにもファン |
イタリアのコラトゥーラは、アンチョビを作る過程で生まれる魚醤。
わが家でも「1匹のイワシから、アンチョビと魚醤の両方を作る」という
コラトゥーラ風の仕込みに挑戦しています。
→1匹のイワシから2つの発酵食品を──コラトゥーラ風魚醤とアンチョビの同時仕込み 近日公開
日本の魚醤
| 名前 | 産地 | 主な原料 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| しょっつる | 秋田 | ハタハタ | 上品で穏やか。和食に合う |
| いしる・いしり | 石川(能登) | イワシ・サバ・イカの内臓 | 濃厚で力強い。鍋や煮物に |
| いかなご醤油 | 香川 | イカナゴ | やさしくて使いやすい |
日本三大魚醤と呼ばれる、秋田のしょっつる、能登のいしる、香川のいかなご醤油。
どれも、その土地で獲れる魚と塩だけで作られてきた郷土の味です。
新しい魚醤:高級魚で作る、現代の一本
近年は、伝統にとらわれない新しい魚醤も生まれています。
たとえば、高級白身魚で作る、和食に特化した上品な魚醤。
スズキやタイ、ホウボウのような魚を使うと、
ナンプラーとはまったく違う、繊細でクリアな旨味になります。
→海の宝石を丸ごと仕込む『ホウボウの魚醤』の作り方 近日公開
ただ、ここで一点だけ。
最近「魚醤に麹を入れる」レシピが増えていますが、
麹を入れると、魚本来の旨味が麹の甘みに覆われてしまうことがあります。
魚醤の基本は、あくまで「魚と塩」。
無添加の発酵調味料を目指すわが家としては、
「足すこと」よりも「足さないこと」を大切にしたい。
→魚醤に麹、ちょっと待って──「7:2:1」の前に知ってほしいこと
5. 道具は、何を揃えればいい?
「作ってみたいけど、道具を一から揃えるのは大変そう……」
そう思った方、ご安心を。
魚醤づくりに必要な道具は、実はとてもシンプルです。
容器と、塩と、いくつかの基本的な道具があれば始められます。
特に大事なのが、長期熟成を支える容器と、味を左右する塩。
このあたりは「どれを選ぶか」で仕上がりがけっこう変わるので、
道具選びだけを詳しくまとめた専用の記事を別にご用意します。
甕(かめ)の選び方や、おすすめの塩なども、
そちらの記事でまとめてご紹介しますね。
塩の量や種類で味がどう変わるかは、こちらの記事もどうぞ。
→なぜ青魚は塩が多いの?『魚醤の塩分比率』を魚の種類で変える理由
6. 作り方の全体像を知りたい方へ
「この魚で作ってみたい」という一本が見つかったら、次は作り方です。
魚醤づくりの基本的な流れ(下処理・塩漬け・熟成・収穫)を体系的にまとめた
完全マニュアルがありますので、まずはこちらで全体像をつかんでください。
仕込みの前に知っておきたい、魚のサイズ別の下処理のコツはこちら。
→魚醤の仕込み前に知っておきたい、魚のサイズ別・下処理のポイント 近日公開
完成を見極めるテイスティングの方法も。
→いつ収穫する?『魚醤のテイスティング』完成を見極める5つの軸
7. まとめ:あなたに合った魚醤への地図
魚醤選びの3つの迷いに、もう一度答えます。
✔ 市販品か手作りか
→ まず試すなら、クセの少ないコラトゥーラ。味にこだわるなら手作り。
✔ どの魚で作るか
→ 定番はカタクチイワシ。初心者はキビナゴ・スズキ。慣れたらアジ・クロダイ。上級者はマイワシ・サバ。
✔ どう使うか
→ 上品な白身魚は和食に、力強い青魚はカレーや炒めものに。
魚醤は、魚と塩だけのシンプルな調味料です。
でもその中に、魚の数だけ、味の世界が広がっています。
冒頭で「1本ですべての料理を制するのは難しい」と書きました。
これ、本当なんです。
だって私、お正月にお雑煮を作るときや、寒い日に酒粕汁を仕込むとき、
気づけば魚醤を100cc以上使っていることもあるんですよ。
そういう「ガツンと使いたい料理」には力強い青魚の魚醤、
仕上げに数滴垂らす繊細な料理には上品な白身魚の魚醤。
数本を使い分けて、はじめて魚醤は「本当の意味で万能」になるんです。
だから、最初の一本を仕込んでみたら、きっと二本目が欲しくなります。
わが家がそうだったように。
このページを地図にして、あなたにぴったりの魚醤を、ぜひ見つけてください。
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▶︎ 魚醤づくり何からはじめる?7魚種から選ぶこだわりの1本
▶︎ 和製ナンプラー『カタクチイワシの魚醤』の作り方
▶︎ 自家製魚醤完全マニュアル
▶︎ 魚醤の仕込み前に知っておきたい、魚のサイズ別・下処理のポイント
▶︎ いつ収穫する?『魚醤のテイスティング』完成を見極める5つの軸
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