魚醤の道具・収穫(濾過)編|「漉す道具」は、なんでもいいわけじゃなかった

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魚醤とは(道具の紹介・マニュアル)

1年以上かけて育てた魚醤。

いよいよ収穫——漉す(こす)ときがやってきました。

出来立ての魚醤は、ドロドロに溶けた魚が漬かった、濁った液体です。

ドロドロの魚醤の様子

2年もののマイワシの魚醤

正直、これを「食べ物です」と言われても、口にする気にはなれないかもしれません。

でも、この状態から「漉す」工程を経ることで、

透明感のある、旨味の凝縮したエキスだけが残り、

晴れて万能調味料として活躍できるようになるんです。

「漉すだけでしょ? ザルとキッチンペーパーでいいんじゃない?」

そう思いますよね。わたしも、最初はそう思っていました。

でも、です。

漉す道具を間違えると、1年かけた魚醤を、台無しにしかねません。

色が濁ったり、匂いが移ったり、何時間待っても漉せなかったり……

わが家は、たくさんの失敗をしてきました。

漬けているときよりも、むしろ漉すときのほうが、道具が大事になってくる。

今日は、その話をさせてください。

前回の「仕込み編(重石が大事)」に続く、道具シリーズの第二弾です。

魚醤の道具・仕込み編|容器より大事なのは「〇〇」だった!

 

この記事でわかること

✔ 魚醤を「3度漉す」のはなぜか
✔ 各工程で、どんな道具を使えばいいのか
✔ 脂の多い魚を漉すときの、目詰まりとの戦い方


前提:魚醤は「3度」漉す

まず、わが家の漉し方の全体像をお伝えします。

魚醤は、3回に分けて漉します。

なぜ3回なのか。一度に細かいフィルターで漉そうとすると、

大きな固形物がフィルターをふさいで、液体がまったく流れなくなるからです。

だから、粗いものから細かいものへ、段階的に漉していく。

これが、きれいに、効率よく漉すための鉄則なんです。

工程 使う道具 除くもの
1度目 粗目のステンレスのザル 溶け残った骨など、大きな部位
2度目 スープこし器+キッチンペーパー 1度目で取れなかった、細かい部位
3度目 コーヒードリッパー+コーヒーフィルター 残った細かい濁り(仕上げ)

この3段階を経て、ようやく澄んだ魚醤が完成します。

ひとつずつ、使う道具と、わが家がたどり着いた理由をお話しします。


1度目:粗目のステンレスのザルで、大きな部位を除く

最初の漉しは、溶け残った骨や、大きな固形物を取り除く工程です。

ここで使うのが、粗目のステンレスのザル

このとき、素材は必ずステンレスを選んでください。 これには理由があります。

なぜステンレスなのか──プラスチックの失敗

最初、わが家は家にあったプラスチックのザルを使いました。

結果は——惨敗です。

魚醤の濃い色と、強い匂いが、プラスチックにしっかり移ってしまったんです。

洗っても、洗っても、取れない。

ザルが魚醤色に染まって、魚醤の匂いがする。もう料理には使えませんでした。

なぜ、こうなるのか。

プラスチックの表面には、目に見えない細かい凸凹や、わずかな吸着性があります。

そこに、魚醤の色素(メラノイジンという成分)や香り成分が入り込んで、

定着してしまうんです。

その点、ステンレスは表面がなめらかで、ものを吸着しにくい。

だから、色も匂いも移らず、洗えばすっきり落ちる。

魚醤を漉すなら、ザルやこし器はステンレス一択。これが最初の教訓でした。

目の粗いザルで一度漉し


2度目:スープこし器+キッチンペーパーで、細かく漉す

1度目で大きな部位を除いたら、2度目はもっと細かく漉します。

ここで活躍するのが、目の細かいステンレスのスープこし器です。

なぜ「粗いザル」ではダメなのか

実は、2度目も粗いステンレスのザルで済まそうとして、失敗しました。

目が粗いと、骨や鱗の細かいかけらが、するすると通り抜けてしまうんです。

そして、その通り抜けた固形物が、次(3度目)のコーヒーフィルターに詰まって、

一瞬で目詰まりしてしまう。

つまり、2度目で細かい固形物をしっかり止めることが、

3度目をスムーズに通すための条件なんです。

ここで効くのが、目の細かいスープこし器でした。

わが家のスープこし器の話

このスープこし器、実は15年以上前に、主人がかっぱ橋道具街で買い求めたものです。

プロ用の道具が揃う専門店で、お店のお母さんに

「一般家庭では、そんなに使わないよ」と言われても、

主人が「いる」と言い張って買った、当時7,000円くらいのもの。

正直、当時は「そんな高いもの……」と思っていました。

でも今では、このスープこし器がなければ、魚醤もポン酢もポタージュも、極上の仕上がりにはならなかったと思っています。

粗いザルでは、この役割は果たせません。仕上がりの感動も、ありません。

7年間で百回以上漉した経験から、わが家の基本形はこうなりました。

2度目:スープこし器+キッチンペーパー(無漂白がベスト)

キッチンペーパーは、専用の濾過道具ではありませんが、

長時間液体に触れることになるので、無漂白のものを使っています。

漉す道具

こだわるなら「フック付き」を

もうひとつ、地味だけど大事なポイント。

こし器の横にフックがついているものを選ぶと、ぐっと楽になります。

甕やボウルのふちに掛けられるので、途中でうっかり落とす心配がない。

「もう少しで終わる」というときに、こし器ごと落下したら……

一からやり直しです(経験者は語る)。

わが家で使っているものに近い、フック付きのこし器はこちら→ステンレス18-8のスープ漉し器

2度目を「布(晒)」でやって、失敗した話

実は、2度目を紙ではなく、布(晒)でやってみたことがあります。

布なら丈夫で繰り返し使える、エコでいいじゃない、と思って。

ところが——脂の多い青魚の魚醤を漉したとき、一瞬で目詰まり

布の目が脂で完全にふさがって、液体がぽたぽたとしか落ちない。

しかも、洗っても魚醤の匂いが布に残って取れない。結局、二度と使えませんでした。

なぜ、こうなるのか。

布(綿)は、繊維がセルロースという成分でできていて、

旨味や色素、香りを吸着しやすい性質があります。

つまり、せっかくの旨味や色を、布が吸い取ってしまう。

しかも繊維のすき間に脂が絡んで、目詰まりしやすいんです。

その点、紙(キッチンペーパーやコーヒーフィルター)は使い捨て

吸着した分を、毎回まっさらにリセットできる。

布のように「前回の匂いを持ち越す」こともありません。

特に脂の多い魚を漉すときは、紙一択。 これは2度目も3度目も共通の教訓です。


3度目:コーヒードリッパーで、仕上げる

最後の3度目は、残った細かい濁りを取り除く、仕上げの工程です。

ここで使うのが、コーヒードリッパーとコーヒーフィルター

コーヒー用の紙フィルターをセットして、その上から魚醤を注ぐだけ。

ドリッパーの形が、ちょうど自然に濾過してくれる角度になっていて、

受け容器の上に安定して置けるので、とても便利なんです。

受け容器も、白はダメだった

この3度目で、受け容器でも失敗しました。

最初、白い琺瑯の容器で受けたら、魚醤の琥珀色がしっかり着色して、見た目が悪くなったんです。

白い陶器でも、漂白すれば色は取れます。でも——

魚醤の濾過は、とにかく時間がかかるんです。

ぽたぽたと自然に落とすので、量が多いときや脂の多い魚だと、長い場合は1週間近くかかることも。

その間ずっと、容器を置きっぱなし。毎回漂白するのは、正直しんどい。

そこで、受け容器も茶色いものにしました。

白いドリッパーから、茶色い陶器のドリッパーへ

3度目に使うコーヒードリッパーも、同じ理由で変えました。

以前は家にあった白いコーヒードリッパーを使っていたのですが、

漉し終わるたびに、強めの洗剤で洗って、煮沸で汚れを落としていました。毎回、手間で。

今わが家で使っているのは、日本製の焼き物の、茶色いコーヒードリッパーです。

陶器なので匂い移りもなく、色も目立たず、安定して置ける。

長期間の濾過に、ぴったりなんです。

→わが家で3個愛用しているのが、こちら(楽天市場)

weckのガラスジャーとの組み合わせと、ひと工夫

ちなみに、この茶色いドリッパー、weck(ウェック)のガラスジャー(キャニスター)との相性が抜群で、

わが家では毎回この組み合わせで使っています。

ただ、少しだけ残念なところがあって、

ドリッパーとジャーの口の間に、わずかな隙間ができてしまうんです。

そこでわが家では、端材でドーナツ型のパーツを作って、しっかり設置できるようにしています。

これがあると、夏場に漉していても、隙間から虫が入る心配がありません。

ジグソー(電動工具)をお持ちの方は、作ってみると便利ですよ。

 


ペーパーフィルターの「粗さ」で、味が変わる

ここは、少し踏み込んだ話です。

仕上げに使うフィルターは、実は目の粗さ(孔径)によって、仕上がりが変わります。

フィルターの粗さ 透明度 コク・まろやかさ
粗目(コーヒーフィルター程度) 濁りが少し残る しっかり残る
細目(精密なろ紙) 透き通る 少し減る

なぜ、こうなるのか。

魚醤の中には、旨味のもとになる小さな成分(アミノ酸)のほかに、

「高分子ペプチド」という、少し大きめの成分が含まれています。

この高分子ペプチドが、コクやまろやかさのもとであり、同時に濁りのもとでもあるんです。

細かいフィルターで漉すと、この成分まで取り除かれて、澄むけれど、コクが少し減る。

粗いフィルターなら、この成分が残るので、コクは残るけれど、少し濁る。

ちなみに、グルタミン酸のような旨味の主役は、

どちらのフィルターでも通り抜けるので、旨味の強さ自体は変わりません。

変わるのは「透明感」と「コク」のバランス。だから、わが家ではこう使い分けています。

透明感を出したい(贈り物・上品に使いたい) → 細目で漉す

コクを活かしたい(普段使い・煮込みに) → 粗目で漉す

正解はありません。好みで選べるのが、自家製の楽しいところです。


脂の多い魚は、目詰まりとの戦い

最後に、ひとつ。

脂の多い青魚(イワシ・サバなど)の魚醤は、

どうしてもフィルターが詰まりやすいです。脂が目をふさいでしまうから。

実は、これには対策があります。

漉す前に加熱すると、脂がゆるんで、フィルターを通しやすくなるんです。

ただ、加熱には「漉しやすくなる」以外にも、

味や保存性を左右する、いろんな意味があります。

加熱するか、しないか——これは魚醤づくりの、大きな分かれ道。

詳しくは、別の記事でじっくりお話しします。

→魚醤は加熱する?しない?──味と保存性の分かれ道(近日公開予定)


まとめ──漉す道具は「これでなければ」がある

魚醤は3度漉す。粗いものから細かいものへ、段階的に

1度目=粗目のステンレスのザル、2度目=スープこし器+キッチンペーパー、3度目=コーヒードリッパー。一度に細かく漉そうとすると詰まります。

ザル・こし器はステンレス一択。プラスチックは色も匂いも移る

ステンレスは吸着しにくく、洗えばすっきり。魚醤の濃い色と香りに負けません。

フィルターは紙。布(晒)は目詰まりと匂い移りでNG

紙は使い捨てだから、吸着も匂いも持ち越さない。無漂白のキッチンペーパーがベスト。

受け容器・ドリッパーは茶色を。濾過は1週間近くかかることも

長く置くから、着色が目立たない茶色い陶器が正解。漂白の手間からも解放されます。

フィルターの粗さで、透明感とコクのバランスが変わる

澄ませたいなら細目、コクを残すなら粗目。好みで選べます。

「漉すなんて、どんな道具でもいい」

そう思っていた頃の自分に、教えてあげたい。

普通の道具に見えても、ちゃんと「これでなければ」という理由がある。

1年かけて育てた魚醤を、最後の最後で台無しにしないために。

ぜひ、道具にもこだわってみてください。

漉す道具をまとめて紹介します

▼ 2度目の濾過に。フック付きが安心な、ステンレスのスープこし器 →ステンレス18-8のスープ漉し器(楽天市場)

▼ 3度目の仕上げに。魚醤と同色でストレスフリーな、茶色い陶器のドリッパー →(楽天市場)

道具の話は、続きます

道具シリーズは、仕込み編 → 収穫(濾過)編(今回) → 保管編と続きます。

漉したあとの魚醤を、どう保存するか。次回もお楽しみに。

▶︎ 魚醤の道具・保管編(近日公開予定)

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