突然ですが、世界に唐辛子が何種類あるか、ご存じですか。
以前、本で読んで驚いたのですが、なんと数千種類もあるといわれています。
メキシコには、ハラペーニョやハバネロ。イタリアには、ペペロンチーノでおなじみのペペロンチーノ。
インドには、世界一辛いと言われたブート・ジョロキア。
韓国には、キムチやコチュジャンに使う、辛みの中に旨みのある唐辛子。
中国・四川には、あの痺れる麻辣の唐辛子。そして日本には、鷹の爪や、沖縄の島唐辛子。
国が変われば、唐辛子も変わる。それぞれのお国柄が、辛さや香りに表れていて、面白いんです。
さらに面白いのが、辛くない仲間もいること。
実は、ピーマンやパプリカ、ししとう、万願寺唐辛子も、みんな唐辛子の仲間(ナス科トウガラシ属)。
辛いか辛くないかは、カプサイシンという成分の量の違いだけ。見た目は似ていても、大違いなんですね。
そんな奥深い唐辛子の世界。わが家の畑でも、海外の固定種の唐辛子を育てています。
固定種というのは、代々タネを採り継いでいける、昔ながらの品種のこと。
辛さも、見た目も、本当にさまざま。
真っ赤に熟すもの、オレンジや紫がかるもの、小さいのに強烈に辛いもの……
畑で色とりどりの唐辛子が実る様子は、眺めているだけでも楽しいものです。
そんな唐辛子で、わが家がよく作るのが、タイの調味料「プリッキーヌの酢漬け」。
これがあると、いつもの料理が、ぐっと本格的な味になるんです。
最近ご紹介したガパオライスにも、ラザニアにも、大活躍。
今日は、畑の恵みを長く楽しむ、この保存食のお話です。

この記事でわかること
✔ 「プリッキーヌ」って、どんな唐辛子?
✔ 唐辛子の酢漬け(プリックナムソム)の作り方
✔ どんな料理に、どう使うか(+漬け込む素材を変えた3つの応用)
この記事は、一般的な情報と、わが家の体験をまとめたものです。 唐辛子は刺激が強いので、扱いには十分ご注意ください。
「プリッキーヌ」って、どんな唐辛子?
プリッキーヌは、タイでよく使われる、小さな唐辛子です。
長さは2〜3センチほど。小ぶりなのに、とても辛いのが特徴です。
まず、「プリッキーヌ」という、ちょっと変わった名前について。
その名前の意味を知ると、思わず笑ってしまいます。
タイ語で「プリッキーヌ」は、「ネズミの糞(ふん)の唐辛子」という意味なんです。
小さくて、ころんとした形が、ネズミの糞に似ていることから、そう呼ばれるようになったとか。
なんとも愛嬌のある名前ですよね。
見た目は小さくて可愛らしいのに、辛さは鷹の爪よりも上、といわれています。
小さな体に、驚くほどの辛さを秘めた唐辛子なんです。
(※プリッキーヌの名前の由来については、諸説あります)
トムヤムクンをはじめ、さまざまなタイ料理に使われる、本場では定番の唐辛子です。
唐辛子の酢漬け(プリックナムソム)の作り方
わが家では、畑で育てた固定種の唐辛子で作りますが、
畑がなくても大丈夫。プリッキーヌはプランターでも育ちますし、
市販の生唐辛子でも、おいしく作れます。
この酢漬けは、本場タイでは「プリックナムソム」と呼ばれています。
「プリック」は唐辛子、「ナムソム」は酢、という意味。そのままですね。
タイ料理店のテーブルによく置いてある、定番の卓上調味料です。
作り方は、驚くほど簡単です。
材料
✔ 生の唐辛子(プリッキーヌ、または好みの唐辛子) ── 適量
✔ 酢 ── 唐辛子がかぶるくらい
✔ 塩 ── ひとつまみ(お好みで)
作り方
① 瓶を、熱湯消毒しておく
保存する瓶は、煮沸するか熱湯を回しかけて、しっかり消毒し、よく乾かします。
保存食は、清潔な容器が基本。ここは、ていねいに。
② 唐辛子を、小口切りにする
唐辛子を洗って、水気をよく拭き、小口切りにします。種は取らなくて大丈夫です。
辛いのがあまり得意ではない方は、みじん切りがおすすめです。
③ 瓶に入れて、酢を注ぐ
切った唐辛子を瓶に入れ、唐辛子がかぶるくらいまで酢を注ぎます。
塩をひとつまみ加えると、味が締まります。
④ 冷暗所で、数日おく
作ってすぐは、酸味が強く、辛さは控えめ。
2〜3日ほどおくと、辛味がしっかり出て、酸味がまろやかになります。
これが、食べはじめのサインです。日が経つほど、味に深みが出ていきます。
わが家では、大体1年寝かせて、十分熟成させたものを食べています。

唐辛子を扱うときの注意
ひとつだけ、大事な注意を。
唐辛子の辛味成分は、とても刺激が強いです。
素手で切ると、手がヒリヒリすることがあるので、
使い捨ての手袋をするなど、直接触らないようにします。
特に種のまわりのわたの部分です。
もし触ってしまった場合は、すぐに手を洗ってください。
直接触っていなくても、直後に目や顔は触らないように気をつけてください。
小さなお子さんがいる場合も、ご注意を。
もし包丁で切るのが心配なようでしたら、キッチンばさみを使うのもおすすめです。
どんな料理に、どう使う?
このプリッキーヌの酢漬け、本当に万能なんです。
液体(酢)の部分も、唐辛子の部分も、どちらも使えます。
エスニック料理に
✔ ガパオライス ── 仕上げに少しかけると、本格的な辛さと酸味が加わる
✔ タイの麺料理(パッタイなど) ── 皿うどんの酢のように、味が締まる
✔ フォーやトムヤム ── 辛さと酸味を、好みで調整
最近ご紹介した、魚醤で作るガパオライスにも、ぜひ。ぐっとお店の味に近づきます。

洋食にも、和食にも、中華にも
エスニックだけではありません。ジャンルを問わず、意外なほど幅広く使えます。
✔ ラザニアやパスタ ── 市販の辛味調味料のように、数滴たらすだけ。こってりした後味がさっぱり
✔ 餃子のタレ ── いつものタレに少し混ぜて
✔ 焼きそば、チャーハン ── 仕上げにひとふり
✔ 南蛮漬け ── 酢と唐辛子なので、相性ばっちり
こってりしたラザニアやパスタに、瓶入りの辛味ソースのような感覚で、ちょっと垂らす。
酸味と辛味が後味を引き締めてくれて、意外なほどよく合うんです。

小さな子どもがいても使いやすい
わが家で重宝される理由、それは「あと使い」ができるから。
小さな子どもがいると、料理そのものに香辛料を入れるのは、なかなか難しいですよね。
でも、この酢漬けなら、大人のお皿にだけ、あとから少し加えればいい。
家族みんなで同じ料理を食べて、大人だけ辛みをプラスできる。
しかも、加熱の必要がなく、そのまま使えるのも手軽です。
火を通さず、仕上げにちょっとかけるだけ。忙しい食事の支度でも、負担になりません。
なぜ、プリッキーヌなのか
数ある唐辛子の中で、なぜわが家がプリッキーヌを選ぶのか。
理由は、その味わいにあります。
プリッキーヌは、沖縄の島唐辛子に近い風味で、辛さの奥に、甘みを感じるんです。
そして不思議なことに、漬けて1年ほど経つと、相当辛いはずなのに、甘みと旨味が増してくる。
七味唐辛子にも、ラー油にも、豆板醤にもない、独特の旨味。
この深い味わいが、いろいろな料理に寄り添ってくれるんです。
ちなみに、タイの人は、この唐辛子を生のまま食べることもあるのだとか。
わが家でも試してみましたが……さすがに、生はわたしには無理でした(笑)。
でも不思議なことに、この酢漬けにすると、あの辛い唐辛子が、するりと食べられるんです。
もちろん少量ですけど。
酢の酸味と、漬け込む時間が、辛さの角をとってくれるのでしょうね。
保存食にすることで、素材の新しい一面が引き出される。これも、発酵や保存の面白さです。
漬け込む素材を変えれば、世界が広がる
このプリッキーヌの酢漬け(プリックナムソム)には、よく似た調味料があります。
面白いのは、同じ唐辛子でも、「何に漬けるか」で、まったく違う調味料になること。
タイの食卓には、4種の調味料がある
タイのお店のテーブルには、たいてい「クルワンプルーン」という、
4種類の調味料セットが置かれています。
これで、自分好みに味を調整しながら食べるのが、本場のスタイル。
その4種とは——魚醤漬けの唐辛子(プリックナンプラー)、酢漬けの唐辛子(プリックナムソム)、
粉唐辛子、砂糖です。
砂糖があるのもなかなか面白いなと思うのですが、それ以上に唐辛子が使われている調味料の多さにも驚きました。
中でも、唐辛子を「漬けた」保存食は、酢漬けと、魚醤漬けの、2種類。
この2つなくして、タイ料理は語れない、それくらい食卓に欠かせない存在なんです。
① 酢に漬ける ── プリックナムソム(今日のレシピ)
今日ご紹介した、酢漬け。さっぱりした酸味と辛味が持ち味です。
② 魚醤に漬ける ── プリックナンプラー
唐辛子を、魚醤(ナンプラー)に漬けたもの。
本場タイでは「プリックナンプラー」と呼ばれ、酢漬けと並ぶ卓上調味料の定番です。
酢漬けが「酸味」なら、こちらは魚醤の深い旨味と辛味。
わが家では、これも毎年作っています。そして、いろいろな魚醤で試してみた結果——
カタクチイワシの魚醤が、いちばん向いていると感じています。
すっきりした旨味が、唐辛子の風味を邪魔せず、きれいにまとめてくれるんです。
考えてみれば、本場タイのナンプラーも、主にカタクチイワシから作られる魚醤。
だから、カタクチイワシの魚醤が合うのは、理にかなっているのかもしれませんね。
何をどの魚醤に漬けるのがいいのか、それを考えるのがまた面白いんです。
この「唐辛子の魚醤漬け」は、また別の記事でじっくりお話しする予定です。
→【畑×発酵食】畑の唐辛子で作る、旨辛調味料「唐辛子ナンプラー」(近日公開予定)
③ お酒に漬ける ── コーレーグース
ここで、わが家ならではの、もうひとつの漬け方をご紹介します。
タイの4種の調味料を眺めていて、わたしは、あることに気づきました。
「唐辛子を、お酒に漬けたものは、ないんだな」と。
ところが——日本には、あるんです。 唐辛子をお酒に漬けた調味料が。
それが、沖縄そばでおなじみの「コーレーグース」。
沖縄の島唐辛子を、泡盛に漬け込んだもので、
泡盛が琥珀色に染まり、お酒の香りと、キリッとした辛味が生まれます。
「タイにお酒漬けがないなら、うちで作ってみよう」——そう思い立って、
わが家でも、日本の唐辛子(島唐辛子)を、泡盛に漬けて、
コーレーグース風の調味料を仕込んでみました。
これが、大正解。沖縄そばは食べないのですが、畑の野菜をたっぷり使ったチャンプルーや、
お刺身のお醤油にちょっと垂らしても、絶品なんです。
国は変わっても、その土地ならではの食材を漬け込んだ保存食が、
代々受け継がれてきたというのは、とても興味深いことです。
タイでは酢や魚醤に、沖縄では泡盛に。手に入る素材と、その土地の知恵で、
同じ「唐辛子を漬ける」でも、まったく違う調味料が生まれ、根づいていく。
食文化の奥深さを感じずにはいられません。
お酒に漬けるときの、法律のはなし
お酒に食材を漬けるとき、ひとつ知っておきたいのが、日本の法律(酒税法)のこと。
「お酒に何かを漬けるのって、法律的に大丈夫?」と心配になる方もいるかもしれません。
でも、唐辛子を泡盛に漬けるのは、問題ありません。
ポイントは2つ。アルコール度数20度以上のお酒を使うことと、自分で飲む(自家消費する)こと。
泡盛は度数が高い(30度以上が多い)ので、この条件を満たしています。
(ちなみに、お米やぶどう〈レーズン含む〉を漬けるのはNG。梅酒でレーズンを使えないのは、このためです。唐辛子は問題ありません)
ただし、アルコール度数が高いので、使いすぎには注意。
お酒に弱い方や、妊娠中の方、運転前は控えてくださいね。
(コーレーグースの詳しい作り方も、いずれ記事にする予定です)
→【畑×保存食】島唐辛子と泡盛で作る、沖縄の辛味調味料「コーレーグース」(近日公開予定)
そして、唐辛子保存の王道「塩蔵」へ
酢、魚醤、お酒——と紹介してきましたが、
実は、唐辛子を長く活かすいちばんの王道は「塩蔵(えんぞう)」、つまり塩に漬けることです。
塩に漬けた唐辛子は、じっくり時間をかけて熟成し、
やがて、奥深い発酵調味料へと姿を変えていきます。
たとえば、中華の豆板醤(トウバンジャン)。そら豆と唐辛子を、塩で仕込む発酵調味料です。
そして、新潟・妙高に古くから伝わるかんずり。
唐辛子を塩漬けし、雪にさらして、柚子や麹とともに、三年かけて発酵させる。
なんとも奥深い、日本の伝統的な発酵調味料です。
(「かんずり」は妙高の会社の登録商標でもあるので、
わが家で作るものは、それにならった「かんずり風」の発酵薬味、と呼んでいます)
わが家でも、畑の唐辛子を塩蔵して、こうした発酵調味料づくりに活用しています。
雪にはさらしていませんが、唐辛子と塩、麹で仕込んだものは、
驚くほど日持ちします。実は今、2019年に仕込んだ7年ものを、食べているんです。
腐るどころか、熟成して旨味が増していく。塩蔵と発酵の力には、本当に驚かされます。
その話は、それぞれ別の記事で。
→乾燥そら豆と塩蔵唐辛子で作る、自家製豆板醤(近日公開予定)
→塩蔵唐辛子と麹で作る「かんずり風」発酵薬味(近日公開予定)
畑の唐辛子ひとつから、酢漬け、魚醤漬け、お酒漬け、そして塩蔵の発酵調味料まで。
一年を通して、いろいろな形で楽しめる。唐辛子は、本当に奥が深い野菜です。
まとめ──畑の唐辛子を、一年楽しむ
畑で育てた固定種の唐辛子を、酢に漬けるだけ。
たったそれだけで、いつもの料理を本格的にしてくれる、万能調味料ができあがります。
プリッキーヌの酢漬け(プリックナムソム)は、作り方もシンプルで、保存もきく。
エスニック料理はもちろん、こってり系の後味を締めたいときにも、大活躍します。
畑の恵みを、そのときだけで終わらせず、保存食にして一年楽しむ。
自分で育てたものが、食卓を彩ってくれる喜びは、格別です。
唐辛子を育てている方も、市販のものを使う方も、
ぜひ一度、この小さな瓶の万能調味料を、作ってみてくださいね。
参考にした情報源
プリッキーヌや、酢漬けに関する一般的な情報を参考にまとめました。 呼び名や由来には諸説あり、作り方も家庭によってさまざまです。
・プリッキーヌ(唐辛子)に関する一般的な情報(Wikipedia等)
・タイの卓上調味料(プリックナムソム)に関する一般的なレシピ情報
※唐辛子は刺激が強い食材です。扱いや保存には十分ご注意ください。
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▶︎ 世界の魚醤、飲み比べ。コラトゥーラから日本のいしるまで(近日公開)
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