1. はじめに
鯛を探しに、早朝から行きつけの海辺の直売所に出かけました。
お目当ての鯛はなかったのですが、ちょうど目の前に運ばれてきたのが、
ピカピカに光り輝く立派なスズキ。
「それ今朝揚がったばかりだよ。」とお店のおかあさんから言われると、
もう迷う理由がありません。
スズキは、セイゴ → フッコ → スズキと名前が変わる出世魚です。
脂質が少なくタンパク質が豊富で、少し川魚にも似たクセのない澄んだ旨味が持ち味。
白身魚の魚醤を作るなら、まずスズキからがおすすめです。
なぜ「まずスズキ」なのかというと、理由はシンプルで、
スズキには特殊なリスクや個性がほとんどないからです。
青魚のように脂やけを気にする必要がなく、クロダイのように磯臭さが出にくい。
下処理に特殊な工程はなく、各手順の「なぜそうするか」がわかりやすい。
スズキで覚えた仕込みの原則は、そのまま他の花鯛やヒラメといった白身魚にも応用できます。
わが家では7年以上、いろんな魚で魚醤を作ってきましたが、
白身魚の魚醤づくりの「教科書」にピッタリな魚、それがスズキです。
なお、今回はスズキ単体で仕込みます。
スズキだけでどこまで究極の旨味を抽出できるかを確認するのが目的です。
今後、昆布を添加して旨味の相乗効果を狙うバージョンも作成予定ですので、
そちらもあわせてお楽しみに。
この記事でわかること
✔ スズキが白身魚の魚醤の「基準」と言える理由
✔ 丸ごと1匹を仕込むための下処理と手順
✔ 失敗しないための注意点と対策
2. スズキの魚醤ってどんなもの?
無添加で作れる、安心の発酵調味料
魚醤は醤油のように使うこともできますが、旨味成分が多く含まれているため、
どちらかというとめんつゆや白だしのような万能調味料に近い存在です。
スーパーに並んでいるめんつゆって、裏のラベルを読むと添加物が色々入っていますよね。
その点スズキ魚醤の材料は、魚と塩だけと安心です。
それなのに、少し加えるだけで料理の味がグッとひきしまります。
わが家では「ちょっと味が決まらないな」というときの、最後の切り札にもなっています。
スズキの魚醤は「クリアで透明感のある旨味」が特徴です。
花鯛のような甘みでもなく、クロダイのような複雑なコクでもない。
旨味がまっすぐに立ち上がり、料理素材の味を引き立てる「縁の下の力持ち」のような存在です。
煮物、お吸い物、玉子焼き、ドレッシング、何にでも添い遂げる力がありますが、
特に卵料理に向いています。
スズキの魚醤で作る茶わん蒸しはまさに料亭の味、控えめに言って絶品です。
和食以外にも、洋食、イタリアン、アジア料理にも驚くほどなじみます。
ナンプラーやいしるといった市販の魚醤が苦手な方には特におすすめですし、
小麦も大豆も使っていないので、アレルギーのあるお子さんがいるご家庭にも安心です。
小麦アレルギーのお子さんがいる友人は「うどんの汁にはこれがないと!」と絶賛してくれました。
発酵の仕組みを論理的に理解したい方へ
スズキは脂質が1〜3%と白身魚の中でも特に少なく、タンパク質は19〜21%と豊富です。
脂が少ない魚は、長期発酵中に脂が酸化(脂やけ)するリスクが低く、
雑味のないクリーンな旨味が出やすいという特徴があります。
またタンパク質が多いということは、分解酵素によって生み出される旨味成分(グルタミン酸など)の量も多いといえます。
さらにスズキは、食中毒の原因になるヒスタミンの元となるヒスチジン(アミノ酸の一種)の含量が低く、
生息環境も清浄なため、体表や内臓の初期菌数が比較的少ない魚です。
つまり、旨味のポテンシャルが高いのにリスクが少ない、難を探すのが難しいくらいです。
クロダイの「雑食性に由来する複雑なコク」や、花鯛の「小ぶりさを活かした仕込みの手軽さ」のような際立った個性はありませんが、
旨味の仕組みを最もシンプルに観察できる素材、それがスズキです。
3. 材料と道具
材料(仕込み量の目安)
| 材料 | 分量 | メモ |
|---|---|---|
| スズキ | 丸ごと1匹(目安:1〜3kg) | 鮮度の良いものを選ぶ |
| 塩(天然海塩) | 魚の重量の20〜25% | 魚:塩 = 4:1〜5:1 |
白身魚の塩分比率は青魚(3:1)より低めで大丈夫です。
スズキはヒスタミンリスクが低く、脂やけリスクも低く、初期菌数も少ないため、
青魚ほど高い塩分濃度で抑え込む必要がありません。
塩分を控えめにすることで、分解酵素の働きが過度に抑制されず、旨味の蓄積がスムーズに進みます。
ただし、これはスズキの特性に基づいた設計です。
他の魚種に同じ比率をそのまま適用しないでください。
スズキについて
スズキ(鱸)は、体長50〜80cmにもなる大型の白身魚です。

通年入手可能ですが、旬は夏と冬の年2回とされています。
スーパーの切り身コーナーで見かけることはあっても、
丸ごと1匹の状態で手に入る機会はそう多くありません。
直売所や鮮魚店で見かけたら、迷わず確保することをおすすめします。
活け締めされた個体が手に入るなら最高です。
活け締めは、魚が暴れて旨味成分の元になる物質を消費するのを防ぐ技術です。
最近は「活け締め」や「神経締め」のように、鮮度を保つ職人技が施された魚の需要が高まっています。
購入先でも確認することをおすすめします。
塩について
精製塩でも作れますが、未精製の塩の方がミネラル分が多く含まれていて、
発酵の助けになるとされています。
わが家では海の素材を使う時は、岩塩ではなく海塩を使うようにしています。
特に魚醤作りには欠かせません。

→わが家おすすめの未精製の海塩
道具
| 道具 | 用途 |
|---|---|
| 甕(かめ)またはガラス瓶 | 仕込み容器 |
| 重石・押し蓋 | 素材を液中に沈める |
| 計量スケール | 塩の量を正確に量る |
| 出刃包丁(大) | 頭の半割り・輪切り用 |
| 料理ばさみ | エラ・内臓の除去用 |
| ボウルとザル | 下処理・血抜き用 |
| 新聞紙・まな板(大) | 大型魚の作業スペース確保用 |
一番重要なのは保存容器です。
発酵の環境を整えるのが何より大切です。
最初はガラス瓶で作っていましたが、夏場の気温が上昇するタイミングで発酵が過剰に進み過ぎて、
思うような仕上がりにならないことがありました。
試行錯誤の末に辿り着いたのが、昔ながらの甕(かめ)です。
厚みのある陶器は外気温の変化を受けにくく、発酵が安定するため、
長期熟成する場合にも向いています。
「いい発酵はいい道具から」
自家製魚醤に本気で取り組むなら、まずはわが家と同じ陶器の甕を一つ買ってみてください。
安くはない買い物ですが、失敗すると材料だけではなく、
掛かった時間も無駄になってしまいます。
一度に大量に仕込むことができ、少量仕込むよりも発酵が安定します。
特にスズキは大型魚なので、甕のサイズに注意してください。
重石の分のスペースや撹拌することも考慮して、余裕のあるサイズを選びましょう。
もし初めてなので中の様子がみえるようにガラス瓶で漬けたいという場合でも、2~3か月して大まかな発酵の様子がわかったら甕に移すといいでしょう。
4. 仕込み手順
STEP1|スズキの鮮度を確認する
仕込む前に、まず個体の状態をチェックします。
スズキは体が大きいので各部位をしっかり確認できます。
最低限確認して欲しいポイントは以下の5つです。
✔ 体表に銀白色の光沢がある
✔ 目が透明で膨らんでいる(白濁・凹みは鮮度低下のサイン)
✔ エラが鮮紅色で無臭
✔ 腹部に弾力があり、押すと戻る
✔ 尾を持ったとき頭側が水平を保つ(垂れ下がるのは鮮度低下のサイン)
特に最後のチェックは大型魚ならではの判断方法ですので、覚えておくと便利です。
頭側が水平を保っている個体は、まだ旨味成分が豊富に残っている可能性が高いです。
逆に頭が垂れ下がるほど硬直が解けた個体は、既に分解が進んでいる可能性があります。
直売所であれば水揚げ日を確認できるので、必ず聞くようにしましょう。
STEP2|血抜きをする(大型魚ならではの工程)
血抜きは、大型魚では特に重要な工程です。
血液が残っていると、発酵中に鉄臭や金属臭の原因になり、仕上がりの味を損ないます。
キビナゴやアジのような小型魚では、血抜きをしている間にも急激に鮮度が悪くなってしまうため現実的はありませんが、
スズキのような大型魚では、この一手間が仕上がりのクリアさを大きく変えます。
① エラ蓋の下のエラ動脈を切断します。

② 塩水(3%)に5〜10分間立て掛けて放血します。
真水ではなく必ず塩水を使ってください。
真水だと浸透圧の関係で筋肉に余分な水分が入ってしまいます。
③ 大型個体(60cm以上)の場合は、尾部近くにも切込みを入れると、より効果的に血が抜けます。
STEP3|下処理をする
大型のスズキの場合、シンクに収まらないこともあります。
大きなまな板と新聞紙を敷いた作業スペースを確保してから始めてください。
わが家ではまな板を2枚並べて使っています。
① うろこを丁寧に取ります。

スズキのうろこは比較的大きく取りやすい部類です。
尾から頭方向にかき取ってください。
※背ビレ・胸ビレの棘(きょく)が鋭いので、厚手のキッチングローブの着用をおすすめします。
② エラを取り除きます。

エラは雑味と臭みの最大の原因です。
百害あって一利なし、必ず除去してください。
料理ばさみでエラの付け根を切断し、骨ごと引き出すと楽です。
取り除いたあとは、エラのまわりを流水で念入りに洗い流してください。

③ 腹を開いて内臓を出します。

胆嚢(緑色の嚢)は潰さないよう慎重に取り除いてください。

潰すと苦味と変色の原因になります。

また肝臓は鮮度が良ければ(赤褐色で弾力がある)一緒に漬け込んでもいいでしょう。(写真右側)

旨味の元になります。
暗褐色で崩れやすい、または異臭がある場合は除去するのが無難です。
胃が膨らんでいたら内容物を除去してください。

スズキは小魚を食べているので、残っていると腐敗の原因になります。(下の写真は洗ったあとのスズキの胃)

④ 腹腔内の血合い(背骨に沿った暗赤色の部分)を流水でよく洗います。
スプーンの背でこそぎ取ってください。
鉄臭の原因になる部分です。

胃のように水で洗った内臓には塩をまぶしておきます。

⑤ 頭を半割りにします。
スズキの頭は大きくて骨も硬いです。
出刃包丁の根元を使い、上から体重をかけるようにして割ります。

⑥ 胴を輪切り(ぶつ切り)にします。

厚さは4〜6cm。
骨ごと断面を出すことで、分解酵素が働きやすくなります。
皮は残したまま仕込んでください。
コクや甘みの元になる成分の供給源です。
なぜ4〜6cmなのか?
大型魚は身が厚いため、中心部まで塩が届くのに時間がかかります。
塩が届いていない部分は腐敗菌にとって絶好の環境です。
輪切りにして断面を増やすことで、塩の浸透を早め、腐敗のリスクを防ぎます。
4cm未満だと断片が多くなりすぎて管理が煩雑になり、6cm以上だと中心部への浸透が遅れます。
これで準備完了です。

STEP4|漬け込む
水気を切ったらすぐに漬け込みを開始します。
① 容器の底に塩をひとつかみ振ります。

② はじめに内臓を入れ、その上にスズキの輪切りを重ならないよう平らに並べます。
大きめの内臓は切りながら詰めます。

内臓のまわりは塩が少し多いなと思うくらい入れます。

③ 塩をまんべんなく振ります。
断面に直接塩を擦り込んでください。

表面に振りかけるだけでは、身の厚い部分まで届きにくくなります。
特に腹腔内にはしっかり塩を入れてください。
④ ①~③を繰り返して層を重ねます。
⑤ 一番上は塩で厚めに覆います。

注意する点は1つだけです。
それは塩が偏らないように気を付けること。
塩が一箇所に固まってしまうと、塩の薄いところができて腐敗のリスクになります。
全体にむらなく行き渡るよう、各層ごとにしっかり振るようにしましょう。
STEP5|液面を覆って重石をする
① 熊笹か経木で液面全体を覆います。
② 押し蓋を乗せます。
③ 重石をして全体が液中に沈むようにします。
スズキは骨がしっかりしているため浮きやすいです。
仕込み重量の30〜50%程度の重石を使ってください。
④ 蓋をして冷暗所で保存します。
熊笹を使うと産膜酵母が出にくくなります。
熊笹には天然の抗菌成分が含まれているので、液面を覆っておくだけで管理がずいぶん楽になります。
熊笹が手に入らない場合は、経木(昔ながらの納豆の梱包材)でも代用できます。
ラップは一時的には有効ですが、長期間保存する場合にはカビが発生しやすく向きません。
STEP6|仕込み記録をつける
あとで振り返るためにも、必ず記録しておきましょう。
- 仕込み日:
- スズキの重量(体長):
- 活け締めの有無:
- 塩の量:
- 肝臓の有無:
- 副材料(昆布の有無など):
- 保管場所:
- 気づいたこと:
スズキは個体差が大きい魚です。
活け締めの有無と肝臓を入れたかどうかは仕上がりの味に直結するので、必ず記録してください。
5. よくある失敗と対策
失敗① 白い膜が液面に張ってきた
原因: 産膜酵母という酵母が増えています。

腐敗ではないのでパニックにならないで大丈夫です。
対策: 膜をスプーンで丁寧に取り除いて、塩をひとつかみ追加します。
そのあと撹拌して液面を密閉します。
多くの場合はこれで落ち着きます。
失敗② 開けるとアンモニア臭や腐敗臭がする
原因: 腐敗菌が増殖している可能性があります。
対策: 臭いが強い場合は残念ながら廃棄が安全です。
改善策としては、
✔ 塩の比率を4:1に増やす
✔ エラと内臓の除去・血抜きを徹底する
✔ 輪切りをもう少し薄くする(4cm以下に)
✔ 仕込み初期の撹拌を毎日行う
がありますので、次回作るときの参考にしてください。
失敗③ 身の中心部だけ臭い(外側は問題ないのに)
原因: 大型魚で最も注意すべき失敗です。
輪切りが厚すぎて、中心まで塩が浸透しきれなかった可能性があります。
対策: 該当部分を取り除いてください。
次回は輪切りの厚さを4〜6cm以下にし、切った直後に断面に塩を擦り込むように徹底してください。
失敗④ 鉄臭い・金属っぽい味がする
原因: 血抜きが不十分だった可能性があります。
対策: 完成した魚醤の段階では除去が難しいため、次回仕込み時に血抜きを徹底してください。
塩水(3%)での放血と、腹腔内の血合いの除去が特に重要です。
失敗⑤ 臭いだけで旨味が感じられない
原因: 発酵期間が短すぎる可能性が高いです。
対策: もう少し待ちましょう。
スズキの魚醤は、早くて1.5年、しっかり熟成させるなら2年が目安です。
白身魚の魚醤は急がないのが一番のコツです。
失敗⑥ 液体が増えない(魚が溶けない)
原因: 撹拌が少ない、塩が偏っている、または重石が軽い場合が考えられます。
対策: 週に1回程度、底からすくい上げるようにかき混ぜてください。
重石も見直して、十分な圧がかかっているか確認しましょう。
6. まとめ
スズキ魚醤をうまく作る3つのポイント
✔ 鮮度が命。活け締めの個体が手に入るなら最高
直売所で水揚げ日と活け締めの有無を確認してください。
旨味のポテンシャルは鮮度で決まります。
✔ 血抜きをする。大型魚ならではの一手間
鉄臭を防ぐための工程です。
塩水(3%)で5〜10分の放血を行いましょう。
✔ 仕込みの初期段階はこまめに撹拌する
最初の1ヶ月は、最低でも3日に1回は腐敗を防ぐために混ぜるようにしましょう。
仕込み自体は30〜40分。
材料は魚と塩だけ。
スズキの魚醤は、白身魚の魚醤の中で最もクセがなく、どんな料理にも使いやすい1本に仕上がります。
この1本で学んだことは、花鯛にも、クロダイにも、真鯛にも応用できます。
直売所で丸ごとのスズキに出会えたら、ぜひ挑戦してみてください。
次回は、昆布を添加して旨味の相乗効果を狙うバージョンをご紹介します。
スズキ単体のクリーンな旨味と、昆布を加えたときの変化を比較するのも、魚醤づくりの醍醐味です。
発酵の経過、熟成の様子は続きの記事で
仕込んだあとの月ごとの変化(色や香り、味の移り変わり)と、漉し方や保存方法については別の記事でくわしくご紹介しています。
▶︎ 【続き】スズキ魚醤の発酵経過と完成、漉し方|24ヶ月の記録 →近日公開予定
道具をまとめて紹介します
魚醤作りにおすすめの道具や材料をまとめました。
結果が出るまでに1年以上かかるからこそ、妥協はしたくない。
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一度揃えると、毎年仕込むのが楽しみになってきますよ。
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