タイ料理屋さんで食べたトムヤムクン。
あまりにおいしくて、「家でも作りたい!」と意気込んで、ナンプラーを買いました。
……結果、数滴使っただけで、賞味期限切れ。
冷蔵庫の奥で、私とにらめっこする日々。
「わかる」と思った方、いませんか?
ナンプラーって、タイ料理には抜群に合うんです。
でも、和食に使おうとすると、インパクトが強すぎる。
どうやっても、うまく使いこなせない。
きっと料理上級者なら違ったんでしょうけど、私には無理でした。
「魚醤って、こんなに難しいものなのかな……」
そう思いかけていた頃に出会ったのが、白身魚で作る魚醤でした。
ひとくち味見して、衝撃が走りました。
臭くない。
いえ、正確に言うと、魚醤そのものは、それなりに匂いはします。
でも、料理に使って完成させると、その香りはほとんど消えて、旨味だけが残るんです。
ナンプラーのあの主張の強さが、まるでない。
たとえるなら、最高に上品な白だし。
それが、白身魚の魚醤でした。
ナンプラーが苦手だった私が、「これなら毎日の和食に使える」と、
はじめて心から思えた一本です。
それからわが家では、スズキ、花鯛、クロダイ、メイタガレイ、ホウボウ……
数えきれないほどの白身魚で魚醤を仕込んできました。
この記事では、なぜ白身魚だとこんなに上品な魚醤になるのか、
そして和食に特化した一本の作り方を、
20種類以上を仕込んできたわが家の経験から、まるごとお伝えします。

この記事でわかること
✔ なぜ白身魚だとクセのない上品な魚醤になるのか
✔ どの白身魚を選べばいいか(魚種ガイド)
✔ 和食に特化した白身魚魚醤の作り方
「そもそも魚醤って?」という方や、青魚との違いを知りたい方は、先にこちらを。
1. なぜ、白身魚はクセのない魚醤になるのか
魚醤には、大きく分けて2つの系統があります。
青魚(赤身魚)の魚醤と、白身魚の魚醤です。
この2つは、同じ「魚醤」とは思えないほど、色も香りも味わいも違います。
| 青魚の魚醤 | 白身魚の魚醤 | |
|---|---|---|
| 代表的な魚 | カタクチイワシ・アジ・サバ | スズキ・タイ・カレイ |
| 色 | 濃い琥珀色 | 淡く澄んだ琥珀色 |
| 香り | 力強い・クセがある | おだやか・上品 |
| 旨味 | パンチがある | クリアで繊細 |
| 向く料理 | エスニック・中華・煮込み | 和食全般・お吸い物 |
少し乱暴なたとえをすると──
青魚の魚醤が「クラスのムードメーカー」なら、白身魚の魚醤は「物静かな優等生」です。
ムードメーカーは、ハマる場面では場をぱっと盛り上げる。でも、静かな場では浮いてしまう。
優等生は、どんな場面でもそつなくこなして、全体をそっと底上げする。
タイ料理という「賑やかな場」ではナンプラーが主役。
和食という「静かな場」では、白身魚の魚醤がそっと寄り添ってくれる。
そんなイメージです。
白身魚がクセのない魚醤になる理由は、主に2つあります。
理由①:脂が少ない
白身魚は、青魚に比べて脂が圧倒的に少ない。
脂は、発酵中に酸化すると「脂やけ」という独特の臭みを生みます。
青魚の魚醤に時々ある、あの主張の強い香りの一因がこれ。
白身魚は脂が少ないので、脂やけ由来のクセがほとんど出ません。
理由②:身が淡白で、雑味が少ない
白身魚は、もともと身の味が淡白で繊細。
その繊細さが、魚醤になってもそのまま受け継がれます。
青魚のような野性味がなく、透き通った、上品な旨味の魚醤に仕上がります。
だからこそ、白身魚の魚醤は繊細な和食の味を壊さない。
お吸い物に数滴落としても、素材の味を邪魔せず、旨味だけをそっと底上げしてくれます。
仕込み中の見た目の違い──白くにごるのは、白身魚の証
ひとつ、知っておいてほしい特徴があります。
青魚の魚醤は、仕込んで数週間できれいなオレンジ色の液体が上がってきます。
一方、白身魚の魚醤は、初期の段階では白くにごった感じになることが多いんです。
「失敗かな?」と不安になるかもしれませんが、大丈夫。
漉せば、にごりはちゃんと取れます。
そして熟成が進むと、澄んだ淡い琥珀色に落ち着いていきます。
最終的な色は、青魚の魚醤の方が少し濃いめ。
白身魚は、最後まで淡く上品な色合いを保ちます。

2. 「臭くない」だけじゃない──作るしかない理由
白身魚の魚醤、実は市販ではなかなか手に入りません。
これには理由があります。
世界的にも珍しい
世界の魚醤を見渡すと、その多くはカタクチイワシなどの青魚で作られています。
タイのナンプラーも、ベトナムのニョクマムも、イタリアのコラトゥーラも、原料は青魚。
白身魚をわざわざ使った魚醤は、世界的に見てもとても珍しいんです。
高級な白身魚を、1年以上かけて魚醤にする──
コストも手間もかかるので、商業的にはなかなか作られてこなかった。
近年のクラフト魚醤、でも無添加は希少
近年、日本では「クラフト魚醤」とも呼べる、
個性的な魚で作る新しい魚醤が少しずつ生まれています。
白身魚や高級魚を使った上品な魚醤も、その流れのひとつ。
ただ、市販のものを手に取ってみると、
保存性や風味の安定のために、添加物が使われていることが少なくありません。
「白身魚で作った、上品で、しかも完全無添加の魚醤」
これを求めると、市販品ではほとんど見つからないのが現実です。
だったら、作るしかない。
材料は、魚と塩だけ。
小麦も大豆も、保存料も使わない。
世界的にも珍しくて、市販ではまず出会えない、わが家だけの上品な一本。
それが、白身魚の魚醤を「作る」最大の理由です。
3. ナンプラーが苦手な人へ──クセを抑える3つのコツ
「魚醤に挑戦したいけど、あの匂いが不安」
そんな方も、3つのコツで、クセを抑えた一本が作れます。
✔ 白身魚を選ぶ(これが最大のポイント)
✔ 熟成期間を短めにする(半年〜1年の若い魚醤はクセが穏やか)
✔ 内臓を入れない(雑味の元を減らす)
この3つを調整すると、魚醤の独特の香りが苦手な方も、
きっと「これなら使える」と思える一本になります。
4. どの白身魚を選ぶ?──魚種ガイド
「白身魚」と言っても、種類はさまざま。
わが家がこれまで仕込んできた白身魚を、特徴とともにご紹介します。
スズキ──白身魚魚醤の基準
バランスが取れた、白身魚魚醤の「基準」となる一本。はじめて白身魚で作るならまずこれ。
花鯛(ハナダイ)──上品な甘みの入門魚
スズキより小ぶりで、複数匹をまとめて仕込めるので味が安定。ほんのり甘みのある上品な旨味。
クロダイ──磯の香りをまとった個性派
雑食性で「磯の香り」を持つことがあり、うまく発酵させると複雑なコクに。少し上級者向け。
メイタガレイ・ホウボウ──小型・希少な白身魚
小型・個性的な白身魚にも、それぞれの味わいが。ホウボウは硬い鳴き袋を分解するため麹を少し加える独自設計も。
→海の宝石を丸ごと仕込む『ホウボウの魚醤』の作り方 近日公開
釣り人の方へ──未利用魚という最高の素材
もし釣りをされるなら、ぜひ知っておいてほしいことがあります。
市場に出回らない「未利用魚」で作る魚醤は、まさに唯一無二です。
名前も知られていないような小さな白身魚、お店には並ばない魚。
そんな魚で作った魚醤は、世界に一本だけの味になります。
ただし、ひとつだけ注意を。
魚醤を作るときは、必ず魚種ごとに分けて仕込んでください。
いろんな魚をまとめて漬けたくなりますが、それはおすすめしません。
理由は、魚種によって脂の入り方や身の性質がまるで違うから。
混ぜてしまうと、脂の多い魚が脂やけを起こしたり、
もしうまくいかなかったときに、どの魚が原因だったのか分からなくなるんです。
「未利用魚で作りたい」という方のために、
魚醤づくりで守るべきルールをまとめた記事を別にご用意する予定です。
→失敗しないために。魚醤づくりで守りたいこと (近日公開予定)
これから増やしていきます
マダイ、キンメダイ、アマダイ、ヒラメ……
わが家ではこれからも、いろんな白身魚で仕込んで、この記事に追記していく予定です。
「この魚で作ってほしい」というリクエストもお待ちしています。

5. 材料と道具
材料
| 材料 | 分量 |
|---|---|
| お好みの白身魚 | できるだけ1kg以上 |
| 塩 | 魚の重量の3割(魚:塩 = 約3:1) |
白身魚は脂もヒスチジン(ヒスタミンの元)も少ないので、
青魚ほど神経質に塩を効かせなくても、安全に発酵します。
塩は、ミネラルが発酵を助ける海塩がおすすめです。
なぜ岩塩ではなく海塩なのかは、いずれ別の記事で詳しくお話しします。
→塩の量を魚で変える理由:なぜ青魚は塩が多いの?魚醤の塩分比率
道具
✔ 容器(ガラス瓶 or 陶器の甕)
✔ 重石
✔ ボウル・ザル・包丁
→魚醤作りに欠かせない道具たち (近日公開予定)
6. 作り方──白身魚は「解体して仕込む」
白身魚は、ある程度の大きさがあるので、
エラと内臓を取り、輪切りにして仕込む「ルートB(解体)」が基本です。
全体の流れは完全マニュアルにまとめています。
STEP1|鮮度を確認する
目が澄んで、エラが鮮やかな赤、身に弾力があるものを。大型魚は血抜きがされているとさらにクリアに。
STEP2|下処理(ここが白身魚魚醤の肝)
① ウロコを取ります。
② エラを取り除きます。 エラは雑味と臭みの最大の原因。クセのない魚醤を目指すなら必ず除去。
③ 内臓を出します。苦玉(胆のう)を潰さないよう注意。
④ 血合い(背骨沿いの赤い部分)を流水でしっかり洗い流します。 鉄臭さの原因に。
<クセを抑えるコツ> 白身魚で上品な魚醤を作る最大のポイントが、この下処理の丁寧さ。エラ・内臓・血合いをしっかり取り除くほど、雑味のないクリアな魚醤になります。

STEP3|輪切りにする
胴を4〜6cmの輪切りに。皮はつけたままでOK。骨ごと断面を出すと塩の浸透が早まります。
→魚醤の仕込み前に知っておきたい、魚のサイズ別・下処理のポイント 近日公開
STEP4|塩漬け
① 容器の底に塩を敷きます。
② 輪切りを並べ、断面に直接塩をすり込みます。
③ 層を重ね、最上段は塩で厚く覆います。

STEP5|重石をして待つ
液面を熊笹か経木で覆い、押し蓋と重石をのせて冷暗所へ。
最初の1か月はときどき混ぜ、あとはじっくり熟成。
クセのない若い魚醤が好みなら半年〜1年、深い旨味を求めるなら1.5〜2年待ちます。
初期は白くにごりますが、心配いりません。漉せば澄みます。
STEP6|濾過して完成
澄んだ淡い琥珀色になったら、布やペーパーフィルターで漉して完成です。
すぐ使うなら火入れなし、長期保存したいなら火入れを。
→完成の見極め方:いつ収穫する?魚醤のテイスティング 5つの軸
7. 和食での使い方──「最高に優秀な白だし」
白身魚の魚醤は、わが家では「最高に優秀な白だし」だと思っています。
白だしのように、少し加えるだけで料理の旨味がぐっと深まる。
しかもクセがないので、繊細な和食の味を壊しません。
✔ お吸い物・すまし汁 ── だしの代わりに数滴。上品な旨味が広がる
✔ 茶碗蒸し ── 卵液に少し加えると、なめらかな旨味に
✔ おひたし・煮浸し ── 醤油の代わりに。素材の色も活きる
✔ 白身魚の煮付け ── 仕上げにひとたらしで、魚の旨味が二重に
✔ 卵焼き・だし巻き ── ほんの少しで、お店のような深みに
コツは「香りをつけるくらいのつもりで、少しずつ」。
白身魚の魚醤は主張が穏やかなぶん、青魚の魚醤より少し多めに使っても料理を邪魔しません。

白身魚の魚醤を活かした和食レシピは、近日まとめて公開予定です。
→和食に映える。白身魚の魚醤レシピ5選(近日公開予定)
8. まとめ
白身魚の魚醤、3つのポイント
✔ 料理に使えば香りはほぼ消え、旨味だけが残る「上品な白だし」
魚醤自体は多少匂いますが、完成した料理ではクセがなくなる。ナンプラーが苦手な方こそ試す価値があります。
✔ 世界的に珍しく、無添加は市販でほぼ手に入らない。だから作る
白身魚の魚醤は世界でも希少。完全無添加のものは、自分で作るしかありません。
✔ 下処理の丁寧さが、上品さを決める
エラ・内臓・血合いをしっかり取り除くほど、クリアな魚醤になります。
ナンプラーに挫折した私を救ってくれたのが、白身魚の魚醤でした。
クセがなくて、繊細で、毎日の和食にすっとなじむ。
「魚醤は苦手」と思っている方にこそ、一度試してほしい一本です。
まずは手に入りやすいスズキあたりから、始めてみませんか。
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