魚と塩だけじゃない:麹や出汁も?魚醤に”ちょい足し”する材料とその理由

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わが家の魚醤、たまに魚と塩以外のものが入っていることがあります。

「え、魚醤って魚と塩だけで作るんじゃないの?」

もちろん、基本はそうです。

「それじゃあ、あやしい添加物か…」

そうではありません。

主人曰く、プラスの価値を生むものたちです。

 

一体何を入れているのでしょう。

キッチンの片隅に並んでいる魚醤の甕を覗くと、昆布が入っているものがあったり、

麹がパラパラと混ぜてあるものがあったり、木の棒みたいなものが差してあったりします。

魚が丸の状態で塩漬けにされているだけでも異様なのに、それに木の棒はさすがに怪しすぎます。

 

今回は魚醤の「ちょい足し材料」について、魚醤仕込み担当の主人に聞いてみました。

 

①昆布:旨味を「掛け算」にする

旨味の代名詞といえば「昆布」。

魚醤も例外なく旨味が倍増します。

味噌汁を作るとき、昆布だしとかつおだしを合わせると美味しくなりますよね。

魚にはイノシン酸という旨味成分が多くて、昆布にはグルタミン酸という旨味成分が多い。

この2つが合わさることで、旨味の相乗効果が起きます。

1+1=2じゃなくて、7とか8くらいまで一気に増える感じです。

それでは全部の魚醤に昆布を足せばいいかというと、そうではありません。

加える魚醤は、味が淡泊でクセのない白身魚の魚醤、

そして用途はやはり和食に限定していいでしょう。

出汁をブレンドを、魚醤の仕込みの段階で済ませてしまう、単純に言うとそういうことのようです。

 

入れ方のポイント

仕込むときに、魚と一緒に甕に入れるだけ

✔ 乾燥昆布をそのまま入れてOK(戻さなくて大丈夫)

✔ 量の目安は、魚500gに対して昆布5〜10g程度

白身魚(スズキ・花鯛など)との相性が特に良い

 

主人はスズキの魚醤を「昆布なしバージョン」と「昆布ありバージョン」の両方で仕込んでいます。

スズキのように大型魚だからこそ、甕を2つに分けることができます。

スズキの魚醤の作り方はこちら

 

そして昆布の唯一の注意点、それは入れすぎないことです。

昆布の味は意外と強く、とろみの成分も含まれているので、味わいや使い勝手が想像以上に悪くなってしまうことがあります。

ちなみに柔らかくなった昆布は佃煮にできると期待したのですが、魚の脂がまとわりついて臭みが出てしまうので、役目を果たした後は畑の肥料にしています。

 

②麹:酵素の「助っ人」を呼ぶ

発酵食といえば、まず思いつくのが「麹」ではないでしょうか。

味噌や醤油、日本酒やみりんなど、和食の調味料のほとんどに麹が使われています。

麹を魚醤に加える目的は、硬い部位をやわらかく溶けやすくするためです。

 

甘酒や塩麹を作ったことがある方なら、麹の「分解する力」はよくご存知だと思います。

塩麹に鶏肉を漬けると、びっくりするくらいやわらかくなりますよね。

あの麹の力を、魚醤にも使うんです。

昆布同様、こちらも全部の魚醤に入れるわけではありません。

あくまで必要な場合だけ、魚の酵素だけで十分に分解が進む場合は麹を加える必要はありません。

 

ではその麹が「必要な場合」は、どんなときでしょうか。

主人曰く、

「コラーゲンが多くて硬い部位を一緒に仕込むとき。

たとえばホウボウの鳴き袋。

あれは分厚いコラーゲンの塊で、魚の酵素だけだと分解にすごく時間がかかる。

そこに麹のプロテアーゼ(タンパク質を分解する酵素)を足すと、ダブルの力で分解が進む。」

なるほど。

 

麹は「いつも入れるもの」じゃなくて、「硬い部位を溶かしたいときの助っ人」ということのようです。

ちなみに秋田の「しょっつる」でも、麹を使う製法があるそうです。

目的は同じはわかりませんが、昔から使われてきた手法ではあるようです。

 

スーパーでは乾燥麹がほとんどで、生の麹はなかなか手に入りません。

山形に帰省する時には必ず寄って帰る「おたまや」、無農薬生麹を扱っている数少ない麹屋さんです。

おたまやのオンラインショップはこちら

 

入れ方のポイント

塩と麹を混ぜてから、魚にまぶす

✔ 量の目安は、魚の重量の5〜10%

✔ 最初は5%で試して、次回以降に調整するのがおすすめ

入れすぎると甘みが出すぎることがあるので注意

 

麹の出来栄えによって使い分けるのも、わが家のルールです。

最高にうまくできた麹は、こうじ水や甘酒にします。

そのまま食べるのも好きです。

最高傑作とまではいかないまでも、普通に使えるレベルの標準的な麹を、わが家では魚醤に使っています。

「麹は適材適所」、私たちがまだまだ匠と呼ばれるほどの経験を積んでいないので麹の出来も日によって若干ちがいます。

なので、できた麹によって使い分けをしています。

→見た目でわかる、麹の出来栄え別の使い分けはこちら

 

ちなみに花が咲ききれていない標準的な麹でも、魚醤の発酵の手助けにはなりますので、安心してください。

ホウボウの魚醤(麹を使った仕込み)はこちら

 

③熊笹・経木:液面の「番人」

液面に熊笹をのせておくと、カビが出にくくなります。

これは主人が一番こだわっているポイントだそうです。

 

甕の蓋を開けるたびに、液面を覆うように笹の葉が敷いてあるんです。

最初は葉である必要があるのか疑問に思っていましたが、

聞いてみたら、ちゃんとした理由がありました。

「熊笹には天然の抗菌成分が含まれていて、液面に載せておくだけで産膜酵母の発生を抑えてくれる。

ます寿司や笹団子に笹を使うのも同じ理由。

昔の人の知恵だね。」

たしかに、笹で包んだ和菓子って多いですよね。

見た目がいいからだけでなく、保存するための知恵のようです。

 

ちなみに「ラップじゃダメなの?」と聞いたら、

「短期間なら大丈夫。

でも1年以上漬ける魚醤だと、ラップの下にカビが出やすい。

熊笹の方が発酵がずっと安定するよ。」

ということです。

 

熊笹が手に入らないとき

熊笹が手に入らないときに主人が代わりに使っているのが「経木(きょうぎ)」です。

昔ながらの納豆の包み紙に使われている、あの薄い木の板です。

経木にも熊笹に似た天然の抗菌作用があります。

熊笹が手に入らないときも、通販で手軽に買うことができます。

→わが家も使っている、使い勝手抜群の経木(楽天市場)

 

熊笹と経木の入れ方のポイント

液面全体を隙間なく覆うのがコツ

✔ 脂が多いサバなどの青魚は二重に敷く

✔ 産膜酵母が出たら、熊笹(経木)ごと交換して新しいものに

 

④木材(ミズナラ):香りの「奥行き」を加える

これが冒頭でお話した木の棒です。

今まさに実験中です。

でもすごく面白い取り組みなので、紹介させてください。

 

ある日、甕の中に木の棒が刺さっているのを発見しました。

さすがに聞かずにはいられません。

「……これはいったい何?」

「ミズナラのスティック。

ウイスキーの樽熟成と同じ原理で、木の香りを魚醤に移す実験をしてるんだ。」

なるほど、お酒が好きの主人が考えそうなことです。

 

ウイスキーは新酒をオーク樽で寝かせることで、バニラのような甘い香りやスパイス感が加わります。

「ミズナラは日本固有のオークで、ウイスキーの高級樽にも使われている。

バニラみたいな甘い香り成分なんだけど、これが魚醤のメイラード反応によって生まれる香りと同じ方向性なんだよ。

喧嘩しないで、重なるはず。」

……なるほど。

 

正直、全部は理解できませんでしたが、

「木の甘い香り」と「魚醤の熟成香」は喧嘩をしないということらしいです。

今キビナゴの魚醤で1年間の実験をしていて、もうすぐ結果が出るようです。

 

「うまくいったら、アジやスズキでもやってみたい」と目を輝かせている主人を見ていると、

変わり者だけど楽しそうでいいなぁと思います。

 

ちなみに世界には木樽で仕込む魚醤もあります。

イタリアの魚醤コラトゥーラもその一つです。

コラトゥーラは、アンチョビ用にさばいたカタクチイワを塩漬けにしたものなので、

内臓を一緒漬け込む石川のいしりとは違い、よりクリアな味わいがします。

発酵期間も他の魚醤と比べて短いのですが、木樽の香りが移ることによって風味のよい魚醤になっていると思われます。

 

ミズナラのポイント(主人メモ)

✔ 食品用のミズナラ材を使用(ウイスキー用のオークチップでもOK)

✔ 熱湯で煮沸→オーブンで加熱→焼酎で拭いてから投入

✔ 発酵初期(0〜1ヶ月)は避けて、中期(3ヶ月目以降)に投入

✔ 量は少量から(魚500gに対して5g程度)

 

→詳しい内容は、近日公開予定の「ミズナラ実験の結果」でお伝えします。

 

⑤それでもやっぱり「入れない」という選択肢が一番

ここまで4つの材料を紹介しておきながらなんですが、

「まずは魚と塩だけで作ってほしい。何も足さないが一番大事。」

と主人はいいます。

 

最初からあれこれ足してしまうと、

その魚の旨味が本来どんな味なのか、わからないままになってしまいます。

 

引き算を知らないと、足し算の意味がわからなくなる

これは料理にも通じる話です。

 

シンプルな味つけで素材の味を知ってから、

調味料を足していく方が、味の組み立てがわかるようになります。

 

まず魚と塩だけの魚醤を1本作ってください。

そのあとで、昆布を足した2本目を作ります。

並べて味見すると、「ああ、昆布を入れるとこんな風に変わるんだ」と実感できます。

 

そして動かす変数もひとつずつです。

魚醤を仕込むときのコツでもお伝えしましたが、数種類の魚を一つの甕に仕込むのはやめた方がいいのと一緒で、うまくいかなかったとき、また想像していた味と違ったとき、はじめに戻って再構築しやすいよう、足すものもひとつずつにしています。

実験みたいだなぁと思いますが、こうやって比べていくことで、どんどん味に対して敏感になっていき、魚醤の完成度も上がっていきます。

 

添加する材料の早見表

材料 目的 おすすめの魚種 量の目安
昆布 旨味の相乗効果 スズキ・花鯛などの白身魚 魚500gに昆布5〜10g
硬い部位の分解促進 ホウボウ(鳴き袋)など 魚の重量の5〜10%
熊笹 産膜酵母の抑制 全魚種(青魚は二重敷き) 液面全体を覆う量
経木 熊笹の代替 全魚種 同上
ミズナラ 香りの複雑化(実験中) キビナゴなど香りが穏やかな魚 魚500gに5g程度

 

覚えておいてほしいのは、どれも「必須」ではないということ。

 

魚と塩だけで、十分に美味しい魚醤はできます。

その上で、「こういう味にしたい」という目的がはっきりしたときに、

選択肢として持っておくと楽しいよ、という話です。

 

まとめ

昆布は旨味の掛け算。合わせだしの原理を仕込みの段階で。

麹は酵素の助っ人。硬い部位を溶かしたいときだけ。

熊笹・経木は液面の番人。カビを防ぐ昔の人の知恵。

ミズナラは香りの奥行き。ウイスキーの樽熟成を魚醤で(実験中)。

そして一番大事なのは、「まず何も足さずに作る」こと。

 

主人に取材してみて思ったのは、

どの材料にも「なぜ足すのか」の理由がちゃんとあるということ。

なんとなく入れるんじゃなくて、目的があるから入れる。

そして目的がないなら入れない。

このシンプルな考え方が、わが家の魚醤づくりの根っこにあるみたいです。

 

これから魚醤を作ってみようかなと思っている方は、

まず魚と塩だけの1本目を。

2本目、3本目から、少しずつ試してみてくださいね。

 

そして今回は材料と一緒に漬け込むおすすめのアイテムについてお伝えしましたが、次回は「完成した魚醤に加えたいアイテム」をご紹介します。

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