魚醤を始めようとすると、ついついこだわってしまうのが、容器。
こだわっていいんです。道具選びは、楽しいですから。
でも、ひとつだけお願いがあります。
「インテリアに馴染むように白がいい」
「梅酒の瓶とそろえたいから、このガラス瓶で」
そういう見た目のこだわりは、今回だけ、いったん捨ててください。
選ぶ基準は、ただひとつ。「魚醤のため!」と言い切れるかどうか。
それだけで選んでほしいんです。
魚醤の容器には、甕(かめ)、ガラス瓶、琺瑯(ほうろう)、ステンレス、木樽……いろいろあります。
わが家も、ありとあらゆる容器を試してきました。
そして7年の間に、ある結論にたどり着いたんです。
容器以上に、大事な道具がある。
今日は、その話をさせてください。

この記事でわかること
✔ 魚醤づくりで、容器よりも大事な道具とは
✔ 「重さ」と「形」、両方が大事な理由
✔ 結局どんな容器を選べばいいのか
わが家の失敗談──ガラス瓶とペットボトルの日々
魚醤を始めたばかりの頃、わが家はこう考えていました。
「中の様子が見えるガラス瓶が、いちばん安心でしょ」
そして重石は、水を入れたペットボトル。
手軽だし、家にあるものでできる。完璧な作戦だと思っていました。
ガラス瓶は、確かに便利でした。
発酵が進んでいく様子が、色の変化が、全部見える。
「お、いい感じにオレンジ色になってきた」なんて、毎日のぞき込むのが楽しくて。
……でも、問題が起きました。
魚が、部分的に水面から顔を出してしまうんです。
ペットボトルの重石だと、どうしても押さえが甘い。
魚の一部が塩水から飛び出して、空気に触れる。
そして──その飛び出した部分に、カビが発生する。
これが、何度も起きました。
さらに、夏場。
気づくと、いつの間にか水嵩(みずかさ)が減っている。
液面が下がって、また魚が顔を出して、またカビ。
せっかくきれいに発酵していたのに、表面のトラブルで何度も泣きました。

そこで気づいた、たったひとつのこと
何度も失敗を繰り返して、ようやく気づいたんです。
水中で起きるトラブルは、ほとんどない。
塩水にしっかり浸かっている部分は、本当に優秀で、
きちんと発酵して、カビひとつ生えない。
トラブルは、いつも「空気に触れた部分」で起きていたんです。
ということは、です。
魚を、最後まで塩水の中に沈めきること。
表面さえ空気に触れさせなければ、ほぼ失敗しない。
これが、魚醤づくりの核心だったんです。
そして、魚を沈めきるために必要な道具こそ──
重石(おもし)でした。
容器をあれこれ悩む前に、まずしっかりした重石。
これが、わが家がたどり着いた答えです。
もちろん、大前提として「塩分濃度を守ること」「道具を清潔に保つこと」は欠かせません。 そのうえで、表面さえきちんと管理できれば、魚醤はほとんど失敗しない、という話です。
塩分濃度については、魚の種類によって変わるので、こちらをご覧ください。
→なぜ青魚は塩が多いの?『魚醤の塩分比率』を魚の種類で変える理由
「重さ」と「形」、両方が大事
重石というと、「重さ」ばかり気にしがちですが、
実は「形」も同じくらい大事です。
形は「平ら」が絶対条件
重石は、平らであること。 これは絶対条件です。
わが家で、こんな失敗がありました。
平べったいお皿を重石代わりに使ったとき、
お皿の形のせいで、液面との間にわずかな空気の層ができてしまったんです。
そして、その空気の層に、産膜酵母が発生しました。
平らに見えても、少しでも反りやくぼみがあると、空気の隙間ができる。
だから、液面にぴたりと密着する、本当に平らなものを選んでください。
押し蓋(落とし蓋)を使うのも手です。力が均等に伝わって、ぴたりと密着します。
重さは「パターン」があると便利
重さの目安は、仕込んだ魚と同じくらい。
でも、ここでひとつ、わが家のおすすめがあります。
同じ重さを、複数に分けて持っておくこと。
たとえば、わが家には4kgの重石もありますが、
普段は2kg×2個を使っています。
なぜか。
仕込みの最初は、しっかり重くして水分を上げたい。
でも、水分が十分に上がったあとは、重石を軽くしたいんです。
(重すぎると、今度は固形物と水分が分離してしまうため)
このとき、2kg×2個にしておけば、1個減らすだけで調整できます。
4kgが1個だと、これができません。
「重さのパターンを持っておく」。これ、地味ですがすごく便利です。
魚1種類を大量に仕込むより、色々な魚を使って魚醤を仕込みたいなら、軽めの重石を複数所有しておくのがおすすめです。
ちなみにこの重石は押し蓋を兼ねているので、新たに押し蓋を用意する必要はありません。
石はおすすめしない
「重石なら、その辺の石でいいのでは?」と思うかもしれません。
でも、形のいい(平らな)石を拾ってくるのは、重石を買うより難しいかもしれません。
平らで、適度な重さで、清潔に洗える石。
探すのは、意外と大変です。素直に専用の重石を使うのがおすすめです。
では、容器はどう選ぶ?──「重石のしやすさ」で決まる
「重石が大事」とわかると、容器選びの基準も自然と決まります。
重石をのせやすい容器こそ、いい容器。
果実酒用のガラス瓶が、実は不向きな理由
ここで、最初の失敗に戻ります。
わが家が使っていた果実酒用のガラス瓶。
これ、そもそも重石をする設計になっていないんです。
口が狭くて、重石も押し蓋も入らない。
重石をしようとすると、ペットボトルを突っ込むくらいしか方法がない。
中が見えるのは魅力ですが、肝心の「重石のしやすさ」では不利なんです。
かといって、口が広すぎてもダメ
「じゃあ、口が広ければ広いほどいいの?」
と思いますよね。でも、そうではありません。
口が広い=液面が空気に触れる面積が広いということ。
空気に触れる面が広ければ広いほど、産膜酵母やカビが発生するリスクが高まります。
このあたりのトラブルについては、こちらで詳しく。
結論:口が広すぎない、甕がちょうどいい
重石(と押し蓋)がのせやすくて、
かつ、液面が広がりすぎない。
そのバランスがちょうどいいのが、口が適度に広い甕(かめ)なんです。
味噌や梅干、ぬか漬けなど、日本の食文化を長く支えてきたのが、何を隠そうこの甕です。

甕は、厚みがあるので外気温の変化に強く、
温度が安定して、長期熟成に向いています。
わが家がたどり着いた、いちばんおすすめの容器です。
→漬けるに特化した容器「陶器製の甕(~2kgくらい)」
「中が見えない甕」で、失敗しないの?
甕にすると、中の様子が見えなくなります。
「それで失敗しない?」と思いますよね。
でも、大丈夫。
さきほどお話しした通り、トラブルが起きるのは、いつも表面。
水中で起きるトラブルは、ほとんどありません。
だから、フタを開けて表面さえ確認できれば、それで十分なんです。
仕込みに必要な道具は、これだけ
仕込み編で揃えたい道具を、まとめます。
実は、たったこれだけです。
✔ 甕(かめ) ── 口が適度に広く、重石がのせやすいもの
✔ 重石+押し蓋 ── 平らで、重さのパターンがあると便利
✔ 熊笹(くまざさ)または経木(きょうぎ) ── 液面を覆って、産膜酵母を防ぐ
特別なものは、何もいりません。
この3つがあれば、魚醤の仕込みは始められます。
ちなみに熊笹や経木は、液面と魚の間に挟むことで、
空気との接触を減らし、産膜酵母やカビを防いでくれます。

完全密閉?それとも、すきま?──酸素のはなし
ここで、ひとつ疑問がわくかもしれません。
「空気に触れさせないなら、いっそ完全密閉すればいいの?」
実は、これが完全密閉はしない方がいいんです。
発酵は「ガス」を出す
発酵が進むと、微生物の働きで、微量のガスが発生します。
味噌づくりでも、密閉容器に仕込むと、ガスの圧力で蓋が浮いたり飛んだりすることがあるほど。
完全に密閉してしまうと、このガスの逃げ場がなくなって、容器内に圧力がかかります。
だから、ガスは適度に抜けるようにしておく必要があるんです。
でも、空気は遮断したい
一方で、発酵に有用な微生物の多くは、酸素をあまり必要としません(嫌気性といいます)。
逆に、カビは酸素が大好き。
つまり、カビに酸素を与えないことが、カビ対策になるわけです。
結論:「ガスは抜けて、空気は入りにくい」がちょうどいい
整理すると、魚醤の理想的な状態はこうです。
✔ 発酵で出るガスは、ほどよく抜ける
✔ でも、外の空気(酸素)は、なるべく入れない
完全密閉でも、開けっ放しでもない。「ほどほどに遮断」がちょうどいいんです。
そもそも昔は、密閉という概念すらありませんでした。
甕にフタをのせて、重石で魚を沈めて、熊笹で覆う。
それで、ガスは自然に抜け、空気との接触は最小限に保たれていた。
昔ながらの仕込み方には、ちゃんと理にかなった知恵が詰まっていたんですね。
だから、神経質に密閉する必要はありません。
甕にフタを「のせる」くらいでちょうどいい。
きっちり密閉しようとしなくて、大丈夫です。
まとめ──道具選びで、いちばん大事なこと
✔ 容器よりも、まず「重石」。魚を塩水に沈めきることが核心
トラブルは、いつも空気に触れた表面で起きます。魚を沈めきれば、ほぼ失敗しません。
✔ 重石は「重さ」と「形(平ら)」の両方が大事。重さはパターンを持つと便利
平らでないと空気の層ができて産膜酵母の原因に。2kg×2個のように分けておくと、調整が楽です。
✔ 容器は「重石のしやすさ」で選ぶ。口が広すぎない甕がちょうどいい
果実酒瓶は重石に不向き。口が広すぎてもカビのリスク。そのバランスが甕です。
✔ 密閉はしない。「ガスは抜けて、空気は入りにくい」状態に
昔ながらの、フタをのせるくらいがちょうどいい。
魚醤は、特別な道具がなくても作れます。
甕と、重石と、熊笹。たったこれだけ。
そして何より──
魚醤は、魚と塩さえあれば作れます。
道具は、その手助けをしてくれるだけ。
シンプルに、気軽に、始めてみてくださいね。
塩は、魚醤の味を左右する大切な相棒です。どんな塩を選べばいいかは、こちらで。
→こだわりの塩の選び方|精製塩でも作れる?魚醤に使う塩のはなし
道具の話は、続きます
道具については、仕込み編の次は、収穫編(濾過)、保管編と続きます。
▶︎ 魚醤の道具・収穫(濾過)編(近日公開予定)
▶︎ 魚醤の道具・保管編(近日公開予定)
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