ふっくらと焼き上げた分厚い生地に、塩気強めのバターと濃厚なメープルシロップがたっぷりとかけられた、
世代を超えて愛されている昔懐かしいパンケーキ…ではなく、
ふわふわのホイップクリームと数種類のベリーが、まるで芸術作品のように盛り付けられた、
甘党女子にはたまらないタワーパンケーキ…でもなく、
スポンジケーキのような見た目でありながら、何をかけることも添えることもない、
シンプルの極みともいえる焼き菓子、それがわが家のバナナパンケーキです。
しかもこのパンケーキ、洋菓子でありながら、
砂糖、小麦粉、乳製品を一切使いません。
美味しいのに罪悪感ゼロ、
特別な材料や道具は使わず、混ぜて焼くだけだから失敗もしないという、
なんとも夢みたいなスイーツとして、わが家においては市民権を得ていたのですが…
「このバナナパンケーキって、大人にはちょっと物足りないよね。」
主人がボソっと呟いてしまったのです。
な・な・なんと!?
…
正直なところ、私も同じことを思っていました。
乳製品アレルギーと乳糖不耐症の子供たちがいるわが家では、
牛乳だけでなく、バターや生クリームも使いません。
バターの代わりにオイル、牛乳の代わりに豆乳を使うことはありますが、
乳脂肪による風味やコクが出ない分、どうしてもあっさりとした味わいになります。
おまけに砂糖や小麦粉も入れないとなると、油分と糖分の絶妙なバランスで成り立っている洋菓子は、
市販のものと同じクオリティーを求めるのはものすごく難しいのです。
ヘルシーフード=「味はいまいち」というジンクスがなかなか破れないのも、
比べる相手が「小麦の香ばしさ」や「砂糖たっぷりの甘味」や「溶かしバターの濃厚なコク」を身にまとった鉄壁のスイーツだから、仕方がないのです。
タンパク質もしっかり摂れ、材料3つでできるという点では捨てがたいレシピではありますが、
離乳食や幼児食を兼ねていたこともあり、大人には物足りないのも事実で…
色々と改善の余地がありそうなので、材料も一から見直すことにしました。
「ちょっとスパイスをきかせてみようかな。」と主人。
おっと!これは久々に美味しい予感がします。
理系+凝り性の主人、こだわり始めると止まらず、
納得するまで試作を重ねます。
(前回は麻婆豆腐だったような…)
先日遂に、スパイシーなパンケーキが完成したのです!
今回ご紹介するレシピは、私たちと同じように
✔ 小麦と乳製品アレルギー対応のレシピを探している方
✔ グルテンフリーの焼き菓子を食べてみたい方
✔ 甘いものがあまり得意ではない方
✔ 部活や筋トレを頑張っていて、タンパク質をしっかり摂りたい方
には、特におすすめです。
スパイスで満足度アップ!小麦も砂糖も乳製品も使わない、大人味のスパイシーバナナパンケーキの作り方
元祖バナナパンケーキからの改善点
これまで家族の胃袋を満たしてくれたバナナパンケーキは、
ほぼバナナと卵に頼りきりでした。
少ない材料でできるのはメリットではあるのですが、ちょっとした素材の違いが仕上がりにダイレクトに影響していました。
1つ目の改善点「水っぽくなる」
バナナパンケーキは粉類を全く使わないので、卵白の水分によって水っぽくなることがありました。
例えばねっとりとした濃厚な味わいが魅力のパウンドケーキは、
小麦粉(薄力粉)、バター、砂糖、卵をすべて1パウンドずつ使用することから、その名前が付いたと言われています。
わが家では使っていない小麦粉もバターも砂糖も、
生地のしっとり感を決める大切な要素であることは間違いありません。
ただ最近では、健康面から小麦不使用(グルテンフリー)の生活を送っている方も多く、
以前よりも代替の食材がに手に入りやすくなってきています。
小麦粉の代わりには米粉、オーツ粉、そば粉、 アーモンド粉、大豆粉、片栗粉などがありますし、
砂糖の代わりには甜菜(てんさい)糖、はちみつ、メープルシロップなどがあります。
食べ物の陰陽調和を重視するマクロビ界隈でも、小麦粉の代わりに米粉を使うレシピを見かけます。
色々試してみましたが、粉類だけだとどうしても甘味が足りませんでした。
ケーキと名乗っている以上、ある程度の甘さは必要かな…
そんな時家にあった「みりん粕」を入れてみたら、生地の水っぽさが解消され、
食感も格段によくなったんです。
おまけにみりんの芳醇な香りと上品な甘さも加わり、まさに理想の仕上がりになりました。
このみりん粕で、パウンドケーキのようなねっとりとした重厚感のある生地を目指します。
2つ目の改善点「味の輪郭がぼやける」
子供が小さい頃は、よくアレルゲンを含まないお菓子を買っていました。
安心して食べられるというのが最重要課題であるが故に、全体的にマイルドな味わいのものが多く、
大人だけこっそり別のお菓子を…なんてこともありました。
洋菓子はその最たるもの、
小麦粉とバターを焼いた時のあの香ばしさって、もはや反則技ですよね。
バターに真正面から戦いを挑んでも到底勝ち目はなさそうなので、
普段あまり使わないスパイスを加えて、特別感を演出してみようと思います。
今回はカレーなどにも使われ、スパイスの女王とも呼ばれる「カルダモン」と、
アップルパイやカプチーノには欠かせない「シナモン」を使い、
フランスの伝統菓子のような、洗礼された奥深さを醸し出します。
材料について
こちらが1人2ピース×5人分の材料です。
みりん粕 300g
バナナ 3本
卵 6個
ココアパウダー 大きめのスプーン山盛り3杯
カルダモン 9粒(小さめの場合は12粒)
シナモン 大きめのスプーン山盛り1杯
粗塩 小さめのスプーン2杯
<ドライフルーツの洋酒漬け>
レーズン
干し柿
合わせて100g
ブランデー 25㏄
<ナッツ>
クルミ(生) 50g
<その他>
白ごま油 適量
みりん粕
わが家では昔ながらの伝統的な製法で造られている、糖類などの添加のない「本みりん」を使っています。
その本みりんを搾る時に出る搾りかすが「みりん粕」です。
梅の花に容姿が似ていることから、「こぼれ梅」とも呼ばれています。
みりん粕には、タンパク質の一種である「レジスタントプロテイン」が含まれていて、
それが食物繊維に似た働きをすることが、2014年の日本健康医学会で発表されました。
血中コレステロールの低下や、整腸作用が期待できるそうですよ。
実はそのまま食べても美味しいみりん粕、
芳醇な香りと甘味がぎゅっと詰まっている、貴重な発酵食品です。
バナナと卵
お店に並んでいるバナナは、色はきれいですが、
皮は硬く、香りもほとんどしません。
しばらく吊るしておくと、追熟して茶色いシュガースポットが出てきます。
そうなると果肉も柔らかくなり、旨味もグッと増してきます。
バナナはできるだけ大きめのものを選びます。
もう一方の卵ですが、こちらは逆に大きすぎるのはNGです。
大きいものはお得感がありますが、黄身の大きさはほぼ変わらず、
白身の割合が増えていきます。
そうなると、また水っぽくなってしまいます。
黄身と白身のバランスから、ちょっと小さめのMS~Mサイズがおすすめです。
ドライフルーツ(レーズンと干し柿)
レーズンには植物油でコーティングされているものと、されていないものがあります。
レーズン同士がくっつかないというメリットはあるようですが、油も酸化しますし、
普段からオイルコーティングなしのものを選ぶようにしています。
(原材料に「レーズン」とだけ書かれているものです。)
既にオイルコーテイングされているものをお持ちのようでしたら、
油揚げの油抜きをするように、さっと湯通しするのがおすすめです。
また今回は干し柿でしたが、季節によって手に入るドライフルーツも違いますので、
お好みのものをチョイスしてください。
その時の選ぶポイントですが、デーツやアプリコットのように酸味があまり強くなく、
果肉が大きめのものがよく合います。
作り方
下準備
まずはじめに、オーブンを180度に予熱します。
生地ができたらすぐにオーブンに入れるので、忘れずにセットします。
次に、中に混ぜ込む具材の用意をします。
干し柿をレーズンと同じくらいの大きさに切り、ブランデーに漬けます。
ブランデーの量が25㏄とあまり多くないので、漬けるというより和える感じです。
クルミもレーズンと同じか、少し大きめに砕いておきます。
袋に入れてめん棒で叩いても細かくはなりますが、大きさにばらつきが出てしまいます。
ガリっとした食感も楽しみたいので、あまり小さくなり過ぎないように、
包丁で切ります。
次にみりん粕のかたまりをほぐし、パウダー状にします。
ここで登場するのが、乾物を粉状にするのに欠かせない「よめっこさん」です。
容器はコンパクトなんですげどね、
数秒でサラサラになる実力派です。
(フードプロセッサーやミキサーでも代用は可能ですが、出来上がりの細かさはピカイチです!)
ちなみにみりん粕には、みりんがほどよく残っているしっとりタイプと、
しっかりと搾られているタイプがあります。
パウダーにして小麦粉の代わりとして使う場合は、後者の方が使いやすいです。
(しっとりタイプはそのまま食べても美味しいですし、グラノーラもおすすめです。)
みりん粕の次は、カルダモンです。
皮が入ってしまうと食感が悪くなってしまうので、手で剥いて中の黒い種だけ取り出します。
(ニンニク潰し器があると楽ですよ。)
ほんの数秒で粉末になります。
お店にはパウダー状のものが多く並んでいますが、時間の経過と共に香りが飛んでしまうため、
ホール(丸のまま)で購入するのがおすすめです。
生地を作ります
生地の材料が揃ったところで、まずはバナナ1本と全卵2個をミキサーに入れ、
バナナの形がなくなるまで回します。
とろっと飲むヨーグルトくらいの固さになります。
そこにココアパウダー、カルダモン、シナモン、塩を3分の1ずつ入れ、
全体が馴染むまで回します。
そうすると容器を傾けてもなかなか出てこないくらい、ドロっとした質感になります。
バイタミックスのようなハイパフォーマンスのミキサーを使うと、生地も一気に作れそうですが、
パワーはそれほど期待できないわが家のミキサーの場合、モーターの寿命を縮めることにもなりかねないため、
3回に分けるのが賢明です。
(モーター音が低音になったら、入れ過ぎのサインです。)
時間は掛かりますが、きちんと仕上がりますのでご安心を。
出来上がった生地は、大きめのボウルに入れ、
ブランデーに漬けておいたドライフルーツと砕いたナッツを加えます。
そして木べらやゴムベラで全体をさっくり混ぜ合わせます。
これで生地の準備はできました。
早速焼いてみましょう
型にするダッチオーブンを温め、生地が触れるところに薄く白ごま油を塗ります。
ダッチオーブン上級者(主人)によると、オイルを極力使いたくない場合は、
煙が出るくらいまで空焚きしてから使うと、生地がくっつかないという裏技があるそうですが、
その絶妙な予熱加減が分からない私は、サッとオイルを塗っています。
温まったダッチオーブンに生地を流し込み、蓋はしないで23~25分焼きます。
ちなみにわが家では、キッチンに備え付けられたガスオーブンを使っています。
オーブンによって焼き時間は多少前後しますが、まわりにこんがりと濃いめの焼き色が付いていたら、
オーブンを止め、後は余熱で火を通します。
(15分くらいは開けずに、そのままにしておいてください。)
粗熱がしっかり取れたら、食べやすい大きさにカットします。
中はこんな感じに、しっとりきめ細やかに焼き上がりました。
ひと晩冷蔵庫で冷やすと、生地が落ち着いてより美味しく感じます。
小さめの型でしっとり厚焼きにしてもいいですが、
大きめの型に生地を薄く伸ばして焼くと、
表面のパリパリとしたビスコッティのような食感と、中のしっとりとした食感を同時に楽しむことができます。
休みの前日に焼いておくと、早朝「出掛けるよ~!」と起こされても、
そのまま持って出掛けることができるので、得した気分になります。
道具の紹介
今回型として使用したのは、ロッジの「コンボクッカー」です。
蓋もスキレットとして使うことができる優れものです。
(深いフライパンと浅いフライパンをくっつけたような鋳物の鍋です。)
焼く時は蓋をしないのですが、オーブンから出してから蓋をして、
上下逆さまにしてから取ると…
きれいに型から外れます。
以前はケーキ型を使っていましたが、ダッチオーブンを使い始めてから、
オーブンペーパー要らずです。
まとめ
スパイシーバナナパンケーキ、その名前の通りスパイスをたっぷり入れたので、
子供たちにはウケが悪いかな…と思ったのですが、
「みりん粕ある?バナナパンケーキ食べたい!」と、想像以上に大人気でした。
甘過ぎないので、食後の一口デザートにもおすすめです。
身近な材料だけでできるオリジナルのバナナパンケーキと違って、
みりん粕もホールのカルダモンもブランデーも、なかなか家にはないですよね。
でもね、
一度食べると普通のケーキじゃ物足りなくなるくらい、クセになる味わいです。
興味のある方は騙されたと思って、是非一度作ってみてください。
わが家であまりに頻繁に作るので、カルダモンも業務用の大袋をゲットしました。
これって、
パンケーキの域を超えているんじゃないか疑惑。
「ガトーショコラ」か「ブラウニー」か…
細かいことはさておき、
チョコ好き、ガトーショコラ好き、チャイ好き、ラムレーズン好き、
そんな方にもおすすめの、ちょっぴり大人味のスイーツです。
※みりん粕は製造元によっても違いますが、大体6~8%のアルコール成分を含みます。
高温で長時間加熱するため、アルコールは飛んでいるかと思いますが、
お酒っぽさが完全になくなる訳ではありませんので、小さなお子様やお酒が苦手な方はご注意ください。
材料の購入先はこちら
みりん粕
常備している本みりんの一つが、千葉の馬場本店酒造の「最上白味醂」です。
砂糖を使わないわが家では、煮物や玉子焼きはもちろん、
みたらし団子のタレなどのお菓子作りにも、このみりんが大活躍なんです。
今回はこちらの蔵元のみりん粕を使いました。
販売期間が限られているため、すぐには手に入らないかもしれません。
「みりん粕」や「こぼれ梅」で検索して探してみてください。
有機栽培のスパイス
スパイスの値段も年々上がってきていますが、少量しか使わないとはいえ、
できるだけオーガニックのもを選ぶようにしています。
サンタローサ(楽天市場)は品質もよく、ホールのスパイスも豊富に揃っています。
有機栽培のドライフルーツとナッツ
今回はカリフォルニア産の生クルミと、同じくカリフォルニア産のトンプソンシードレス種のオイルコーティングなしのレーズンを使いました。
特にナッツはよく食べるので、ママパン(楽天市場)でまとめて購入しています。
オーガニックレーズンは慣行栽培のものより若干小さめですが、自然な甘さが気に入っています。
バナナと卵
わが家では毎週決まった時間に届けてくれる、東都生協の宅配サービスを利用しています。
有機野菜とNon GMOの肉と卵、有機JAS認証を受けたこんにゃくや豆腐などの加工食品など、
スーパーでは手に入りにくい食材を購入しています。
都内は生協やネットやネットスーパーなどの宅配サービスが多くて、迷ってしまいますよね…
便利なお惣菜やミールキットや調味料などはほとんど購入しないので、参考にならないかもしれませんが、
わが家のように材料にこだわりたい方にはおすすめです。
(生協もオンラインでカタログを公開しているところが多いので、具体的に購入したいものをイメージしながら比較してみるといいですよ。)
バナナパンケーキのアレンジ力は無限!?
レシピを見なくても作れるようになった頃、うっかりカルダモンを入れ忘れたんです。
「うん?これ何かの味に似てるね…
あっ!ゆべしだ!」
次は和菓子の領域を開拓することになりそうです。
参考
岡田麻実・河内佳世子・辻聡・前田真則・舘博,2014,「みりん粕からのレジスタントプロテインの検出」『日本健康医学会雑誌』23:204-205