言わずと知れた高級食材『カラスミ』
ウニ、このわた(ナマコの内臓の塩辛)と並んで日本三大珍味の一つに数えられる。
カラスミ特有の濃厚な味わいは、辛口の日本酒との相性が抜群にいい。
とは言え、小さな桐箱にちょこんと上品に収まって1万円となると、
何かのイベントや誰かへのプレゼントでもない限り、買うのはなかなか勇気がいる。
しかもわが家には、大人顔負けの珍味好きの子供たちが3人もいる。
これは自分たちで作るしかないなと、作りたがりの夫が動き出す。
さてこのカラスミ、本来材料となるのはボラの卵巣。
でも「河川にボラが大量発生!」って、ボラの大渋滞が起こっている様子がニュースで流れたとしても、
イワシやアジのように大衆魚としてスーパーに並ぶことはまずない。
回遊していないボラやスズキは、生活排水にまみれた藻を食べているからか、
臭くてなかなか食用には向かないと聞くが、それが理由かは分からない。
ボラが手に入らないなら、他の魚卵はどうだろう。
そこで白羽の矢が立ったのが『マダラの卵』。
冬といえば真鱈、真鱈といえば鍋。
温かい鍋料理が食べたくなる時期になると、スーパーの鮮魚売り場にはタラの切り身と白子がズラリと並ぶ。
さてさて卵はどこかなと探していると、隅の方に目立つことなくそっと置かれているではないか。

明太子にしたいスケトウダラの卵でもない、醤油漬けにしたいプチプチのイクラでもない、
地味で謎多き卵を買ってみようなんて人はあまりいないようで、割引シールが貼られるまで残っていることも多い。
煮るか、焼くか、漬けるか、
手に取ってはみたものの、料理のイメージが全くわかず、
そっと戻したこともあったような…
それももはや昔の話。
カラスミにできると知ってからは、目が合ったら買わずにはいられない。
ちなみにカラスミを作り始めた5年前(2020年)は、100g88円と特売日の鶏ムネ肉並みの価格だったのに対して、
今は100g150円前後と高値更新中。
それでも他の魚卵に比べて激安であることは間違いない。
材料が手に入ったら、その日のうちにカラスミ作りに取り掛かる。
工程は大きく分けて「塩漬け」「塩抜き」「乾燥」の3つ。
まずは塩漬け。
塩に漬ける目的は、魚卵から余分な水分を抜くこと。
魚卵が見えなくなるくらい、大量の塩を使う。
大体重量の10%。

ただし破れている魚卵を使う場合は、15%と少し多めに塩をする。
と言うのも、マラダの卵は2つがくっついたような形状をしていて、
捌いている途中で真ん中の部分が破れてしまうことがよくある。
慣れてくれば、多少難があったとしてもカラスミにすることはできるけど、
初めてチャレンジする場合は、薄皮が破れていない状態のいい卵を使った方が、
手間も掛からずきれいに仕上がる。
そして海で採れた食材を使う時は、海の塩を使うのがわが家のルール。
伝統的な平釜製法で丁寧に作られた塩は、素材との馴染みがいい。
塩に漬けて3日くらいは、驚くほど水が出る。
なので、深めの容器で漬けておくと安心。
1日1回はチェックして、水が出ていたらその都度捨てる。
塩が付いていないと腐敗の原因にもなるので、魚卵の表面が出てしまうようだったら、
ピンポイントで追い塩をする。
出てくる水の量が少なくなったら、魚卵の下にキッチンペーパーを敷いて、
余分な水分を吸わせるようにする。
そのキッチンペーパーも、1日1回は交換する。
ちなみにラップの上に塩→魚卵→塩の順に置いて、左右を閉じないように全体をラップでぐるっと巻くと、
両端の隙間から水分だけが出てくるので、水だけを取り除くことができるという裏技もあるが、
どちらでもOK。
漬けている間はできるだけ涼しいところで保管する。
高気密高断熱がウリのマンションの場合、冬でも室内で涼しい場所を見つけるのが難しい。
そうなると常温での保存は厳しいので、冷蔵庫のチルド室を利用すると安心。
魚卵の負担にならなければ、複数の魚卵を1つの容器にまとめて漬けてしまっても構わない。
わが家では大体3~4個が同じ容器に収まっていることが多い。
1週間経ったら取り出してみて、全体がカチカチと引き締まった状態になっていれば、
塩漬けの工程は終了。
次は塩抜き。
魚卵の1.5倍の重さを計算して、その9割の水と1割の日本酒を混ぜた液体を用意する。
(魚卵が300gの場合、水が405g、日本酒が45gとなる。)
その液体に魚卵を入れ、冷蔵庫で8時間塩抜きをする。
ラップを巻いた場合は、ラップは事前に取ってから液体に浸ける。
水分を含んで多少ぶよっとはするが、大きく形状は変わらない。
最後は乾燥。
キッチンペーパーで表面の水分を拭き取り、屋外で乾燥させる。
おすすめは干物作りに利用する、チャックで開け閉めできる3段くらいの大きな網。
その網に魚卵をそのまま並べて、風通しのよいところに吊るす。
期間は大体1週間から10日。
あまり乾燥し過ぎると表面に塩が浮いてきて白くなるので、その前に取り込む。
表面が少し引き締まってきたら、出来上がりのサイン。
完成したカラスミがこちら。

うん?どれがマダラのカラスミ?
全部です!
真鱈の卵は、個体によって表面の薄皮の色が違う。
ボラのように一律に光沢のあるオレンジ色にはならない。
切ると中から濃いオレンジ色の卵が顏を出す。
そのまま食べてもよし。
ちょっと炙って食べてもよし。
お酒にもご飯にも合う、マダラのカラスミの完成。
完成したカラスミは、ジップロックのようなファスナー付きのプラスチックバッグに入れて、
空気をしっかり抜いた状態で冷蔵庫で保存する。
ただ時間が経つにつれて乾燥が進み、パサっとした食感になってしまう。
それに、冷蔵庫特有の匂い移りも気になるところ。
わが家では、長期保存したい時は必ず真空パック器を使うようにしている。

ちなみにこちら、正真正銘ボラの卵で作った本物のカラスミ。
雑に作っても見た目の美しさは流石です!
さて、基本のカラスミはこれで完成。
何回か作ってみて、ちょっと変わり種にチャレンジしたくなったら、
塩抜きで使う日本酒を、白ワインやウイスキーに替えてみるのもおすすめ。
口の中でほのかに香るくらいだが、そのちょっとした違いが意外と面白い。
お酒だったら何でもいいのかと言うとそうではなく、アルコール度数15~25%くらいの、
比較的高めのものから選ぶと失敗が少ない。
そこで気にしなければいけないのが、水とアルコールの塩の飽和水溶液濃度の差。
理系の夫曰はく、液体は液体でも、
水とアルコールでは塩の溶ける量が違うんだって。
例えば水100gに対して塩26gの塩が溶けるのに対して、
アルコール(濃度100%と仮定する)100gには0.2gと、水の1/100しか溶けない。
ウイスキーのように40%越えの高アルコールのお酒を使う場合は、入れるお酒の量を多くするか、
逆に水割りにして薄めるといった調整が必要になる。
(分かるようでいまいち分からない私…)
塩抜きが不十分だと超辛口のカラスミになってしまうので、そこだけ注意。
ちなみに薄皮が破れると、こうなったり、

一腹の真ん中で切れてしまうと、こうなる。

しかもこちらは血抜きを一切しなかったので、中の血が固まって黒くなっている。

細かな血管はともかく、太い血管は氷水の中で針を刺して血を抜いた方が、
味に雑味が少なくなり、見た目もよくなる。
カラスミは手間を掛けた分だけきれいに仕上がる。
ある程度大きさがあって、薄皮の色がきれいだったら、
やってみる価値はある。
最後にマダラで作る場合のメリットとデメリットをまとめると、
メリットは、
✔魚卵が手に入りやすい(勝負は冬!)
✔リーズナブルな価格帯
✔血抜きをしなくても何とかなる(ボラは血管に針を刺して、一日がかりで丁寧に血抜きをする。)
デメリットは、
✔ボラに比べて、パサっとした食感になりがち
✔(マダラだけに)表面が黒っぽいまだら模様になるので、見た目がイマイチ
乾燥させ過ぎてパサっとしたなと思ったら、カラスミパウダーにしてしまえばいいだけだし、
味がよければそれでいいんじゃない?って割り切れる人は、是非一度作ってみて欲しい。
この冬もわが家のベランダは魚卵で埋め尽くされること間違いなし。
ちなみにスケトウダラ、サワラ、スズキ、ホウボウ等、
大人の自由研究で色々作ったカラスミの話はまた次回。
カラスミをマスターしたあなたへ
こちらもマダラの卵を使った究極の珍味。
完成までに1年半掛かるので、気長に待てる方におすすめ。
こちらは秋鮭の白子を使った珍味。
カラスミより濃厚な味わいで、食感もキャラメル並みにねっとり仕上がる。
粕漬け好きにはたまらないクセになる一品。
一家に一台真空パック器
✔ 賞味期限に追われることが激減(そもそも自家製に賞味期限の概念はないけどね…)
✔ とりあえず冷蔵庫に入れちゃえ!ってものは、とりあえず真空
✔ 保存容器を美しく重ねるより、キュッとコンパクトに収納
✔ お裾分けする時に便利(よく買ったものと勘違いされる)
色々あって迷ってしまうけど、「専用袋不要」「液体OK」のタイプがおすすめ。
もちろん業務用の高額なものが機能的にもベスト、でも一万円台くらいのものでも十分使える。
わが家の発酵生活の質を底上げしてくれる、頼もしい相棒。



