鯛の仲間なのに過小評価?『クロダイの魚醤』の作り方:自家製発酵調味料

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1. はじめに

行きつけの海辺の直売所を覗いてみたら、並んでいたのは立派な黒鯛(クロダイ)

普段はあまり見かけない魚だけに、つい衝動買いしてしまいました。

刺身や焼き物もいいけれど、発酵好きはやたらと漬けたがるということで、

今回は魚醤に決定。

丸ごと塩に漬けてしまえば、半年〜1年かけて「わが家だけの調味料」に変わります。

 

クロダイは、真鯛や花鯛と同じタイ科の魚です。

ただ「鯛」と名前がつく割に、料理の世界ではほとんど注目されることはありません。

お祝いの席に並ぶのは真鯛、スーパーで手軽に買えるのは花鯛。

クロダイはその影に隠れて、タイ科の中で最も過小評価されている魚だと思っています。

 

でも魚醤にすると、これが実に面白い。

真鯛や花鯛とはあきらかに違う、奥深いコクと複雑な旨味が出てくるんです。

わが家では7年以上、いろんな魚で魚醤を作ってきましたが、

クロダイの魚醤を初めて味見したときは「他の鯛とこんなに味が違うのか」と驚きました。

 

この記事でわかること

✔ クロダイが真鯛や花鯛とは違う味わいになる理由
✔ 丸ごと1匹を仕込むための下処理と手順
✔ 失敗しないための注意点と対策

 

2. クロダイの魚醤ってどんなもの?

無添加で作れる、安心の発酵調味料

魚醤は醤油のような使い方もできますが、旨味成分が多く含まれているため、

どちらかというとめんつゆ白だしのような万能調味料に近い存在です。

 

スーパーに並んでいるめんつゆって、裏のラベルを読むと添加物が色々入っていますよね。

その点クロダイ魚醤の材料は、魚と塩だけと安心です。

それなのに、少し加えるだけで料理の味がグッとひきしまります。

わが家では「ちょっと味が決まらないな」というときの、最後の切り札にもなっています。

 

クロダイの魚醤は、同じタイ科でも真鯛や花鯛の魚醤とは方向性が違います。

真鯛や花鯛が「上品で甘みのあるやさしい出汁」だとすれば、

クロダイは甘みの奥にしっかりとしたコクと、鼻に抜ける磯の余韻があります。

煮物や卵焼きはもちろん、カレーやトマト煮込みのような、

しっかりと濃厚濃な味つけの料理にも負けない存在感。

ナンプラーやいしるといった市販の魚醤が苦手な方にもおすすめできますし、

小麦も大豆も使っていないので、アレルギーのあるお子さんがいるご家庭にも安心です。

わが家もアレルギー持ち(乳製品)の子がいるのですが、みんなが同じものを食べられるのって嬉しいですよね。

 

クロダイの特徴:真鯛・花鯛との違い

ここで、タイ科3種の特徴を整理しておきます。

真鯛 花鯛(チダイ) クロダイ
体長 40〜70cm 15〜25cm 30〜50cm
入手のしやすさ 高価・直売所向き 安価・スーパーでも 不定期・直売所向き
食性 肉食(甲殻類・小魚) 肉食(小型甲殻類) 雑食(貝・甲殻類・海藻)
脂質 やや少ない 少ない 少ない
魚醤の味わい 上品で甘みが強い 甘みがありクリア コクが深く磯の余韻

 

注目してほしいのは食性の違いです。

真鯛と花鯛はどちらも主に小型の甲殻類や小魚を食べる肉食魚ですが、

クロダイは貝、甲殻類、海藻、ときにはスイカまで食べる雑食性の魚です。

釣り人の間では「何でも食べる魚」として有名で、練りエサや果物で釣れることもあるほど。

この雑食性が、身のアミノ酸組成に影響していると考えられています。

 

真鯛や花鯛が「すっきりとした甘い旨味」に仕上がるのに対して、

クロダイの魚醤には甘みだけでなく、貝出汁のようなミネラル感や複雑なコクが感じられます。

同じタイ科でも、食べてきたものが違うが故に、出てくる味も違うというわけです。

 

発酵の仕組みを論理的に理解したい方へ

クロダイ(黒鯛)はスズキ目タイ科ヘダイ亜科に属する白身魚です。

分類上は真鯛(マダイ亜科)や花鯛(マダイ亜科)とは亜科レベルで異なります。

脂質は少なく、長期発酵中の脂やけリスクが低い点は真鯛や花鯛と共通です。

タンパク質含有量も高く、発酵が進むとグルタミン酸を中心としたアミノ酸が豊富に生成されます。

 

クロダイ特有のポイントは、雑食性に由来する遊離アミノ酸の多様さです。

甲殻類や貝を常食していることで、グリシンやアラニンといった甘味の強いアミノ酸に加えて、

タウリンなどの含硫アミノ酸の存在が、独特の奥行きと余韻を生んでいると推測されます。

 

さらに、クロダイは真鯛ほどではないものの個体が大きくしっかりしているので、

頭や中骨のゼラチン質(コラーゲン)も豊富です。

 

丸ごと仕込むことで、身の旨味と骨まわりのコクが合わさり、

単純な「白身魚の出汁」とは一線を画す、重層的な味わいの魚醤になります。

 

3. 材料と道具

材料(仕込み量の目安)

材料 分量 メモ
クロダイ 丸ごと1匹(目安:1〜1.5kg) 鮮度の良いものを選ぶ
塩(天然海塩) 魚の重量の30〜35% 魚:塩 = 3:1が基本

 

※塩分濃度30%以上を保つことで腐敗菌の増殖を抑えます。

減塩は絶対にしないでください。

 

クロダイについて

クロダイ(黒鯛)は、体長30〜50cmになるタイ科の魚です。

関西では「チヌ」の名で親しまれ、釣りの対象魚として非常に人気があります。

真鯛のような華やかなピンク色ではなく、名前の通り黒っぽい銀灰色の体色が特徴です。

見た目は地味ですが、身は白くて上品。

刺身にすると真鯛よりもやや歯ごたえがあり、噛むほどに旨味が出てくるタイプの魚です。

スーパーの鮮魚コーナーに並ぶことは少なく、直売所や鮮魚店で丸ごとの状態で見かけることがほとんどです。

真鯛に比べると値段もずっと手頃なので、丸ごと1匹を魚醤に使うにはちょうどいい素材です。

見かけたら迷わず確保することをおすすめします。

 

塩について

精製塩でも作れますが、未精製の塩の方がミネラル分が多く含まれていて、

発酵の助けになるとされています。

わが家では海の素材を使う時は、岩塩ではなく海塩を使うようにしています。

特に魚醤作りには欠かせません。

魚醤におすすめの海塩

→わが家おすすめの未精製の海塩

 

道具

道具 用途
甕(かめ)またはガラス瓶 仕込み容器
重石・押し蓋 素材を液中に沈める
計量スケール 塩の量を正確に量る
出刃包丁 頭の半割り・ぶつ切り用
料理ばさみ エラ・内臓の除去用
ボウルとザル 下処理用

 

一番重要なのは保存容器です。

発酵の環境を整えるのが何より大切です。

最初はガラス瓶で作っていましたが、夏場の気温が上昇するタイミングで発酵が過剰に進み過ぎて、

思うような仕上がりにならないことがありました。

試行錯誤の末に辿り着いたのが、昔ながらの甕(かめ)です。

厚みのある陶器は外気温の変化を受けにくく、発酵が安定するため、

長期熟成する場合にも向いています。

「いい発酵はいい道具から」

自家製魚醤に本気で取り組むなら、まずは陶器の甕を一つ買ってみてください。

安くはない買い物ですが、失敗すると材料だけではなく、

掛かった時間も無駄になってしまいます。

高級魚や珍しい未利用魚、魚のアラだけを少量漬ける場合も、重石の分を考慮して小さすぎないサイズにするのがいいでしょう。

→おすすめの陶器製の甕(~2kgくらい)

初めてなので中の様子がみえるようにガラス瓶で漬けたいという場合でも、2~3か月して大まかな発酵の様子がわかったら甕に移すといいでしょう。

 

4. 仕込み手順

STEP1|クロダイの鮮度を確認する

仕込む前に、まず個体の状態をチェックします。

最低限確認して欲しいポイントは以下の4つです。

✔ 目が透明で澄んでいる(黒目がくっきりしている)
✔ エラが鮮やかな赤色をしている
✔ 体表に光沢があり、黒銀色が鮮やかである
✔ 指で押すと弾力があり、跡が残らない

 

クロダイは体色が暗く鮮度の見極めが難しく感じるかもしれませんが、

エラの色で判断すると失敗しません。

エラ蓋を開けて、鮮やかな赤色をしていれば鮮度は良好。

くすんだ茶色や灰色になっていたら、避けた方が間違いはないです。

 

直売所であれば水揚げされた日を確認できるので、必ず聞くようにしましょう。

 

STEP2|下処理をする(丸ごと仕込みの工程)

クロダイは丸ごと仕込みます。

花鯛よりも一回り大きいので、作業スペースをしっかり確保してから始めてください。

 

① ウロコを丁寧に引き落とします。

クロダイのウロコは硬くてしっかりしています。

ウロコ引き(なければ包丁の背)で、尾から頭に向かってしっかり取ってください。

※ヒレのまわりは特にウロコが残りやすいので念入りに。

 

② エラを取り除きます。

エラは雑味や臭みの最大の原因ですので、必ず除去してください。

料理ばさみがあると、エラの付け根を切るだけで簡単に外せます。

 

③ 腹を開いて内臓を出し、腹腔内の血合い(背骨に沿った黒い部分)を流水でよく洗います。

内臓は入れずに捨てるのが無難です。

ただし胃袋は洗って一緒に漬けてもOK。

クロダイは貝を丸ごと砕いて食べるので、胃壁が厚くしっかりしていて、旨味の元になります。

 

④ 頭を半割りにします。

クロダイの頭は硬いので、出刃包丁の根元を使って、上から体重をかけるようにして割ってください。

 

⑤ 胴を甕に収まるサイズにぶつ切りにします。

厚さは3〜4cm程度。

骨ごと断面を出すことで、自己消化酵素が働きやすくなります。

 

⑥ キッチンペーパーで全体の水気をしっかり拭き取ります。

 

クロダイの下処理で知っておいてほしいこと

クロダイは磯の香りが強い個体があることで知られています。

生息環境(河口域・港湾部)によっては、独特の「磯臭さ」を持つ個体がいます。

 

この臭いは下処理で大幅に軽減できます。

ポイントは3つ。

ウロコと皮の間のヌメリをしっかり洗い落とす
エラと内臓を素早く除去する
腹腔内の血合いを徹底的に洗う

時間を置くほど臭いが身に移ります。

素早く、且つ丁寧にがクロダイの魚醤の成功の秘訣です。

 

STEP3|漬け込む

水気を切ったらすぐに漬け込みを開始します。

 

① 容器の底に塩をひとつかみ振ります。

② 魚を平らに並べます。※重ね過ぎない

③ 塩をまんべんなく振ります。

切断面や腹腔内にもしっかり塩を入れてください。

④ ①~③を繰り返して層を重ねます。

⑤ 一番上は塩で厚めに覆います。

 

注意する点は1つだけです。

それは塩が偏らないように気を付けること

塩が一箇所に固まってしまうと、塩の薄いところができて腐敗のリスクになります。

全体にむらなく行き渡るよう、各層ごとにしっかり振るようにしましょう。

 

STEP4|液面を覆って重石をする

① 熊笹か経木で液面全体を覆います。

② 押し蓋を乗せます。

③ 重石をして全体が液中に沈むようにします。

④ 蓋をして冷暗所で保存します。

熊笹を使うと産膜酵母が出にくくなります。

熊笹には天然の抗菌成分が含まれているので、液面を覆っておくだけで管理がずいぶん楽になります。

熊笹が手に入らない場合は、経木(昔ながらの納豆の梱包材)でも代用できます。

ラップは一時的には有効ですが、長期間保存する場合にはカビが発生しやすく向きません。

 

STEP5|仕込み記録をつける

あとで振り返るためにも、必ず記録しておきましょう。

 

  • 仕込み日:
  • クロダイの重量(体長):
  • 塩の量:
  • 入手先・水揚げ場所(わかれば):
  • 副材料:
  • 保管場所:
  • 気づいたこと(磯の香りの強さ、胃袋を入れたかなど):

 

クロダイは個体差が大きい魚です。

生息環境によって香りも味も変わるので、入手先や水揚げ場所を記録しておくと、

次回以降の仕込みで「あの直売所のクロダイが美味しかった」と振り返ることができます。

 

5. よくある失敗と対策

失敗① 白い膜が液面に張ってきた

原因: 産膜酵母という酵母が増えています。

腐敗ではないのでパニックにならないで大丈夫です。

 

対策: 膜をスプーンで丁寧に取り除いて、塩をひとつかみ追加します。

そのあと撹拌して液面を密閉します。

空気に触れないことで産膜酵母のさらなる発生を防ぐことができます。

多くの場合はこれで落ち着きます。

 

失敗② 開けるとアンモニア臭や腐敗臭がする

原因: 腐敗菌が増殖している可能性があります。

 

対策: 臭いが強い場合は残念ながら廃棄が安全です。

改善策としては、

✔ 塩を魚:塩 = 2.5:1に増やす(通常は魚:塩 = 3:1)
✔ エラと内臓の除去を徹底する
✔ 仕込み初期の撹拌を毎日行う

がありますので、次回作るときの参考にしてください。

 

失敗③ 完成した魚醤に磯臭さが残っている

原因: クロダイ特有のトラブルです。

下処理の段階でウロコのヌメリや血合いの除去が不十分だった可能性があります。

また、河口域や港湾部で育った個体は、外洋のものより磯の香りが強い傾向があります。

 

対策: 完成した魚醤を漉すときに、コーヒーフィルターで丁寧に濾過すると、香りがかなりクリアになります。

 

それでも気になる場合は、カレーやトマト煮込みなど、

スパイスや酸味の強い料理に使うと磯の香りが気にならなくなります。

 

次回仕込む際は、下処理の3つのポイント(ヌメリ・エラ・血合い)を徹底してください。

 

失敗④ 臭いだけで旨味が感じられない

原因: 発酵期間が短すぎる可能性が高いです。

 

対策: もう少し待ちましょう。

クロダイは身がしっかりしていて骨も太いため、分解に時間がかかります。

早くて1年、しっかり熟成させるなら1年半が目安です。

 

失敗⑤ 液体が増えない(魚が溶けない)

原因: 撹拌が少ない、または塩が偏っている場合が考えられます。

 

対策: 週に1回程度、底からしっかりかき混ぜてみてください。

塩が均一に行き渡ると、発酵が進んで液体が増えてきます。

 

6. まとめ

クロダイ魚醤をうまく作る3つのポイント

 

鮮度の良いクロダイを丸ごと手に入れる

直売所や鮮魚店で見かけたら迷わず確保。

エラの色で鮮度を必ず確認してください。

 

下処理を丁寧に──ヌメリ・エラ・血合いの3点が鍵

クロダイは個体によって磯の香りが強い場合があります。

下処理の丁寧さが、仕上がりの味に直結する魚です。

 

仕込みの初期段階はこまめに撹拌する

最初の1ヶ月は、最低でも3日に1回は腐敗を防ぐために混ぜるようにしましょう。

 

仕込み自体は30分ほどで終わります。

材料も魚と塩だけと、あれこれ用意する必要はありません。

 

真鯛のような華やかさはないけれど、花鯛にはない複雑な奥行きがある。

クロダイの魚醤は、タイ科の「隠れた実力者」が作り出す、ちょっと個性的な1本になること間違いなしです。

 

お祝いの席に並ぶ魚ではないかもしれませんが、

台所の片隅で1年間じっくり育てた先に、ほかの鯛では出せない味わいが待っています。

直売所で黒い体色の鯛に出会えたら、ぜひ挑戦してみてください。

 

発酵の経過、熟成の様子は続きの記事で

仕込んだあとの月ごとの変化(色や香り、味の移り変わり)と、漉し方や保存方法については別の記事でくわしくご紹介しています。

 

▶︎ 【続き】クロダイ魚醤の発酵経過と完成、漉し方|12ヶ月の記録 →近日公開予定

 

道具をまとめて紹介します

魚醤作りにおすすめの道具や材料をまとめました。

結果が出るまでに1年以上かかるからこそ、妥協はしたくない。

そんな想いで探したわが家には欠かせないアイテムです。

一度揃えると、毎年仕込むのが楽しみになってきますよ。

 

▼ 長期熟成には陶器製の甕(かめ)がベスト
おすすめの陶器製の甕(楽天市場)

▼ 下処理の時短に欠かせない、切れ味抜群の料理ばさみ
切れ味抜群のハサミ(楽天市場)

▼ 一粒食べると納得する、おすすめの天然海塩
未精製の海塩(楽天市場)

▼ 熊笹がみつからなかった時の救世主、昔なつかしい経木
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